朝陽に向かいのんびり高速道路を流していた。
この直前まで迷いに迷っていたことを忘れたかのように。
最近、釣友が憧れの川でミノウオ級を釣った話に触発され、
カムルチー生息地のさらなる探索も魅力的だし、
久しぶりにゴギにも触れたくなってきた。
また、昨年よりさらに遠く高い山にいる
ヤマトイワナ探索もしてみたい。
どの釣行も楽しいものになるに違いなく、
頭の中にある天秤に、魅惑の魚種がひっきりなしに
入れ替わっては揺れている。
毎年、僕は人生初魚との出会いを目標に掲げているのだけど、
今年はまだ出会えていないことを思い出す。
ともすれば自ずと決まってしまう。
釣ったことのない魚がグンと天秤を傾けた。
しかも一週間前には疾走する砲弾型を逃している。
荒瀬に泳ぐサツキマスが手元に与えた衝撃が脳裏に蘇る。
その地方の天気予報を確認すると雨模様であり、
しめしめと。そうか雨模様か良い天気じゃないか。
天気が良いとなれば向かうは新緑眩い河川。
サツキマスが遡上する、あの瀬へ。
六月の声を聞くと鮎釣りの解禁になるのが通例で、
今釣行が心置きなくサツキマスを狙える最後の好機であった。
それに今年はサツキマスの良い情報がないらしく、
川を訪れる釣人の少なさも僕には好都合だった。
さらに僕が現地へ到着する頃は、
出勤前釣行をする地元釣師達が川原を後にしているはずだ。
コンビニで日券を購入し、
国道からするりと川原へ降りようとしたときだった。
目に飛び込んできたのは川原に駐車された車の数々。
視線を流れに移すと何本も突き刺さる釣人の姿。
国道から駐車場に繋がる道には先週見なかったのぼりがはためき、
大きな文字でこうしたためられていた。
「おとり鮎」
・・・・・・終わった。
諸行無常とはこのことなり。
先週フックを伸ばされ逃した瀬の中を先行者達が陣取り、
僕は行き場を失い、しばし呆然と眺めていた。
第二プランなど用意していなかったのだ。
もうひとつの悪条件として、
雨模様であったが川の水を増やすほどの雨量はなく、
ここ最近の減水傾向が輪をかけており、水の勢いはまったくない。
これ即ちポイントが少ないということ。
始まるのは場所取り合戦だ。
あの瀬、この瀬と見て回るも、
瀬という瀬には鮎釣りの姿がひしめき合い、
限られた駐車スペースは満車に近い。
右岸から左岸へ上流から下流へ行ったり来たり。
もう帰ろうかと本気で思い始めていたときだった。
彷徨ったあげく偶然見つけた瀬。
実は一度通り過ぎていたのだけど、まだ誰も立っていなかった。
過去にも気づかなかったこの場所は、
水量が多いと釣りができない場所なのかも知れなかった。
ここしかやるところがないし、
釣人の姿がないのはこれ幸いと準備をしていると、
駐車場に勢いよく車が滑り込んできた。油断大敵。
僕は早々に川へ下りたが、
数分後に振り返るとなんともはや満車状態となる異常事態。
これは多勢に無勢である。
先に僕が糸を垂らしていようとも、
きっと鮎部隊は遠慮なく流れの中へ立ち込んでくる。
過去にもそうして占領されてきた。まさに戦場。もしくはテロ行為。
残すは鮎釣りができない場所に逃げるしかなく、
またそこが僕とサツキマスにとって唯一残された
居心地の良いオアシスだった。
その場所は、辿り着くには岩を上ったり避けたりと、
出勤前釣行組が釣りをするには
非常に面倒と思われるところに隠れていた。
地面に足跡もなかったことから、
早朝から、いや、きっと数日前から誰も投げていないことが
うかがえた。
地形と流れを見るに、本当は対岸から狙うのが一般的のはずだが、
その対岸から狙うには駐車スペースがなく、
しかも川原がとても長く続くため、アプローチが容易ではなさそうで、
事実僕もそうしなかった。なかなかよろしいポイントである。
流れは耳にうるさいほどで、
いくつかできている筋に白泡が長く続いている。
足場は限られており、その立ち位置までのアプローチは
やや雑なものになったが、
足音を遮断する水音と、視界を遮る白泡のおかげで
サツキマスには警戒されていないと信じたかった。
瀬から落ちた流れが勢いよく淵を走る。
白泡で見えない水中を想像し、地形や石の状態を読む。
ミノーを投入してから、どこまで追わせてどこで喰わせるか、
などをしばし考える。
勝負は一投目で決まるはずだ。
ただしいくつかの筋があるので数投はできる。
まずは手前にぶつかりながら足元を突っ走るもっとも強い流芯に
ミノーを投じた。
急流にミノーを躍らせる。
ミノーが足元まで来た時に
魚影が追尾していないかを確認して水から上げる。
次に投げる。そして次。
アップストリームで白泡の下を踊るミノー。
一瞬ラインテンションが抜け、
次にラインが張ったとき手元に伝わる魚信。
鋭くロッドを引き寄せた。魚が喰った。
白泡から抜けたとき、透明な水の中に銀色の魚体が煌めいた。
強い流れに銀色が走る。
サツキマスだ。
小形のようでフックは伸ばされることはないだろうが、
口切れしないよう慎重にロッドを右に左に。
激流の中をよく走ることに感心する。
元気すぎるほど流れを切って走るのだ。
ロッド操作でサツキマスを上流へ走らせ、
腰に差しているランディングネットを右手で抜刀した。
手に馴染むグリップを握り構える。
ここぞという間で流れに沈めると、
急流が持っていこうとする。まったく往生する。
一度、二度、何度か失敗しては、頼む!お願い!入って!
また上流へサツキマスを走らせるが、
遡上魚の体力は天晴れである。サケもサクラマスもそうだった。
流れに負けず、まだ上る。
サツキマスとランディングネットが同一の流れに乗った。
あとは下で待ち受けるランディングネットの
奥深くへと滑りこませることができた。
魚は小形なのに、大きな枠でなければこの状況は打破できなかった。
ほっと胸を撫で下ろす。
おもむろにランディングネットを流れから引き抜くと、
そこには銀色の魚体。
人生においての初魚は、八年目の正直となった。
サツキマスを狙うようになったきっかけは、
東海地方の釣友の誘いだった。2010年のことだ。
氏にとってサツキマスはもっとも美しい魚なのだった。
そんなサツキマスに会いに新緑の季節にどうぞ、と。
初めて立った川原は今でも記憶に残っている。
これまで水辺で出会ったサツキ狙いの人達には色々教わった。
サツキマスの釣り方は他の魚種と同様、
結局人それぞれであった。
「超高速トゥイッチでないと見切られる」、
「ゆっくりで十分釣れる」等々。
共通していたのは、
遡上の群れに当たれば難しいことはないとのことだったが、
それをどう当てるのかが最大の問題であった。
情報回ればそこに釣人集まる。これ当然。
そんな場所は苦手である。
となれば、自分で探すしかない。
幸い、八年通った川は瀬と淵が連続し、
幾度も蛇行している素晴らしい流れを形成している。
これぞ川。健全な川。
昔の姿を知る地元の方からすればとても健全とは言えないらしいが、
なかなかここまで川らしい川は知らない。
川沿いを走れば魅力的に映る場所が無数にあると言ってよく、
無理して先行者がいる場所に入らなくて済む。
サツキマスは上流へ移動しているのか、まだ下流なのか。
もしかすると僕は水溜まりで釣りをしているのだろうか、
いや、百メートルの間に一尾はいるはずだと信じてみたりもした。
増水の好機だと行ってみたものの想像以上の濁流に
手も足も出ず、ほとんど釣りができず涙したこともあった。
足掻きながら歳月は容赦なく重さなっていった。
サツキマスとアマゴは同じ魚だ。
一生を川で過ごす個体をアマゴ、
降海型の総称をサツキマスと呼び、
サツキマスの名が広く知られたのは1970年代頃と資料に記述してある。
サツキマスが生息するのはアマゴが生息する河川であり、
それは太平洋に注ぐ河川である。
しかしサクラマス(ヤマメ)が生息する日本海へ注ぐ河川でも
サツキマスが確認されている。
それもそのはず、僕達が購入した年券の売り上げで、
外来魚となるアマゴを漁協が放流しているからだ。
その理由も漁協関係者から聞いているし、
そんなことをするなと僕の意見も伝えている。
どこでなにが釣れようとも喜べず、
自然繁殖で追いつけないほど魚を持ち帰ることを
嫌い、
数の多さと大きさだけを自慢の糧にしない釣人は
極々少数に過ぎない。まあほとんど居ない。
乱暴な放流事業によるアマゴとヤマメの交雑が問題となっている。
同じアマゴでも天然魚と放流魚の交雑がある。
いわゆる遺伝子汚染と言われるものだ。
それがどういった問題を引き起こしているのかを知り、
意識している釣人との出会いは少ない。
降海や遡上を阻むダムや堰の問題、
サツキマスを取り巻く問題は複雑で難解である。
今回釣れてくれたサツキマスは小形であった。
アマゴとの差異は見た目で判断したが、
明らかにアマゴと容姿が違う。
尾鰭に朱色が交ざらず後端が黒い。また切れ込みが極浅い。
背鰭の黒色、銀色の魚体。
これらサツキマスの特徴を備えていると思う。
またサクラマスやサツキマスには疑似銀化する個体が
居るらしく、こうなってくるとわからなくなってしまう。
自然の中を逞しく生きる野生は奥深く、尊い。
サケ科生息の南限は台湾に生息するタイワンマスというのが
手元の資料に書かれているが、
アマゴ・サツキマスも世界から見れば南限に近いサケ科である。
それはヤマメ・サクラマスよりも。
そういった付加価値を知れば、サツキマスの存在がいかに
貴重かというのがわかる。
上流で生まれ、一度海へ下りまた遡上する習性を持つ
サツキマス。
河口にそびえる悪しき堰に阻まれ昔より個体数を減らしながらも
懸命に子孫を残そうとする姿に敬意を表したい。
もちろん、撮影後は流れに帰した。
サツキマスが釣れ難いのは独特の体質と習性もあるはずだが、
個体数の少なさによるものが最も大きいはずだ。
個体数の少なさが無駄に釣りを難しくさせ、
込み上げる感動を与えてくれることの皮肉といったらないのだけど。
八年目に出会えた初魚を純粋に喜び、
幾日も幸せを反芻しよう。
この一尾を待ってくれていた釣友がいる。
この川で初めて会ってから七年になる。
僕がサツキマスを釣ったら
美味しい焼肉をおごってくれることになっていたが、
氏が先にサツキマスを釣り、
何度川へ訪れようとも僕が釣れないことは
ネタとしてこの上なく美味しかった。
だが、とうとう約束していた焼肉屋へ行けることになった。
お待たせ!
どれだけ待たせてるねん・・・・・・。
鉄板の上に広がる肉は僕を無言にさせるほど美味しかった。
Rod : Rawdealer R711RR-S The Trial By Fire
Reel :07 LUVIAS 2500R
Line : YGK G-soul Upgrade X8 1.2G
Leader : F12lb
Knot : FGノット
Lure : SPEARHEAD RYUKI 80S
Landing net :G.T made it.
rakuten_design="slide";rakuten_affiliateId="0f2b79ef.57ca887c.0f2b79f0.7d40380a";rakuten_items="ranking";rakuten_genreId=0;rakuten_size="468x160";rakuten_target="_self";rakuten_theme="gray";rakuten_border="off";rakuten_auto_mode="on";rakuten_genre_title="off";rakuten_recommend="on";
rakuten_design="slide";rakuten_affiliateId="0f2b7a3e.ab8b1bee.0f2b7a3f.b32d416b";rakuten_items="tra-ranking";rakuten_genreId="tra-allzenkoku";rakuten_size="468x160";rakuten_target="_self";rakuten_theme="gray";rakuten_border="off";rakuten_auto_mode="on";rakuten_genre_title="off";rakuten_recommend="on";rakuten_service_flag="travel";