イトウは心に宿る4
第二次バス・ブームとやらが到来した。
俄かバサーが増殖し、馴染みの釣場に群がり不行儀な振る舞い。
それらが釣場荒廃に拍車を掛け辟易していた。
初めて覚えた魚釣りがバス釣りという俄かバサーが身近にも湧いて出たが、
会話を交わしても僕とはスタイルが全く違い困惑するばかり。
他人に釣り勝つことを喜びとし、釣場では先行者への無神経な接近、
産卵床の親魚を狙うことも厭わない。
ラインブレイクしてヘラヘラ笑える神経を疑い、
まるで新興宗教に洗脳された危険な連中である。
水辺に竿を持って立てば一般人から、
ならず者と同じ目で見られるわけで、
こんなのと一緒にされては堪ったものではない。
不逞の輩とは距離を置くのが一番。
次第に僕の魚釣りの舞台はひと気のない渓流へと移り、
静かなフライフィッシングに傾倒していった。
盛夏の渓流なら野生魚が比較的簡単に釣れる。
フライパターンに苦慮することなく、
大きめのドライフライを流芯に落とせば渓魚が飛び出す。
日没が迫れば大きな淵でイブニング・ライズが始まる。
水生昆虫が一斉に水面に浮き上がって羽化する神秘的な時間で、
それ即ち渓魚達にとっては食べ放題の宴会騒ぎ。
水面のあちこちに波紋が広がるのは、ディンプル・ライズと形容される
水面直下にある被食者を捕食している状況。
時に音を立て激しく水飛沫が上がるのは、ライズと形容される水面捕食。
僕はどこへ投げようかあたふたするが、
こんな時はちょっと格好をつけてティペットに
スタンダードパターンのホワイト・ウルフを結んだりして、
場を荒らすことなく沢山釣ろうと手前のライズから狙うという、
まことにさもしい根性を見せる。
稀に訪れる羽化の規模が大きいものをスーパーハッチと言い、
川の饗宴に釣人と魚はさらに狂喜乱舞する。
大きさや釣獲数で他人と競うことに執着せず、
渓流の宝石と呼ばれる美しい姿態にうっとりする。
そんな世界観に改めて釣りの本質を再認識した。
この選択により鮭鱒への知見が広がることになる。
類は友を呼び、フライフィッシングの知り合いもできた。
それらは親世代の年齢の人ばかりで、
子供が自立し親の介護もまだ先の第二遊び盛りの大人達。
しかもお金と時間に余裕があるため海外や北海道にも平気で行ってしまうし、
サクラマスのシーズンともなれば、
釣場の近くにアパートを借りて週末は釣り三昧の
生活を送る暴挙に出る者もいた。
そりゃあんた離婚されても仕方ないわ。
こうした一部反面教師と共に鮭鱒の生態を教わる機会が増えた。
渓流が禁漁期に入ると、
情熱の行き場を失ったフライフィッシャー達が管理釣場に集う。
清浄無垢な渓流魚と違い、管釣りのニジマスは対極に位置する。
魚は居るのに喰わない状況に対し思考を巡らせ、
特殊な攻略法というものを編み出すことに精を出す。
労せずして百尾釣れる管理釣場もあるのだけど、
が手練れ以外はボーズ必至の難しい釣場がいくつかあり、
修練を積むには恰好の場所。
例えばキャスティングに秀でた者のみしか釣れない管理釣場。
対岸際の流れにニジマスが集まり、水深が浅い手前に泳ぐ姿なし。
バックが取れずウェーディングもできない川原では、
ロールキャストかスペイキャストが必須となり、
鬼の形相になる者と、破顔一笑になる者の差が歴然となる。
渓魚とは異なり、
釣られることを学習した放流魚を相手にする場合、
よりフライパターンの工夫が求められる。
なにせ特殊な環境で育っているわけで、
常に釣人に囲まれ、偽物が目の前にぶら下がり、
時に騙され痛い目にも合っている。
重要になる順ではフックサイズと泳層そしてカラー。
いわゆる当りフライを各自持っているが、
それ一種類で一日通せるほど甘くなく、釣れない時間帯が訪れる。
そんな状況を打開すべく次の一手にフライの色を変更してみると、
また釣れるようになることが多く、
色による魚の反応の違いが顕著である。
どの魚種でもルアー・フライの色の変更が効果的だとは
言い切れないけれど、
釣れない時の次の一手として有効になる場合がある。
良心的な管理釣り場では目の前に魚が確実に居る。
しかし釣れないということは、
今やっていることが間違っていることになる。
釣れないフライを何度も投げる釣人と、
次の一手を繰り出し正解に辿り着く釣人。
水辺に横並びで立っていても、
釣れない人とよく釣る人の差が生じる事例。
次の一手が色だけでなく、フックサイズやリトリーブスピード、
アクション、泳層の違いなのかも知れない。
どれが正解かを少ない投数で正確に導きだせる釣人を
釣りが上手いという。
こと管理釣場においては渓流魚に求める気持ちとは違った、
気難しい放流魚相手に頭を捻る自習室。
自習室で学んだ次の一手を模索する思考力は、
あらゆる水辺で生きてくる。
すでに閉鎖されたが、
高難度の管理釣場で驚愕の出来事があった。
水深浅く透明度が高い。魚は少なく大物ばかり。
ここはいつ来ても多くのフライフィッシャーが首を傾げ、
次第に頭を抱え、最後には肩を落として途方に暮れた。
フライを小さくしても喰わない。
ティペットを細くすれば喰うのだけどラインブレイク。
磯釣りのハリスなら細くて強いはずだとか、
友釣りのハリスがいいんじゃないかなど、水辺は敗残者の吹き溜まり。
正解を導きだしたのはフライフィッシングを教えてくれたお師匠さんだった。
キャストした2Xのティペットに結ばれた大型ストリーマーが水に馴染まず
浮いていた所を、ドナルドソンが躊躇せず喰いついた。
我々の目が点になる。
その後は通常のストリーマーの使い方で快進撃となり、
そんなアホなとその場にいた者は膝から崩れ落ちそうになり、
お師匠の独壇場に指を銜えて虚しく傍観。
だって真似ようにも誰のフライボックスにも
大型ストリーマーなんて忍ばせていないし、
そもそも管理釣場に大型ストリーマーを遠投できる
8番ロッドなど持ち込んでいない。
お師匠いわく水面近くを飛んだ大形の蝶にドナルドソンが反応したのを
見逃さなかったと。凄まじき観察力・・・・・・ほんまかいな。
優越感に浸るというのはこういうことかと破顔一笑されると、
ひれ伏すしかなかった。
自然渓流では使うことのないフライパターンを創作し、
キャスティングに磨きを掛け、
なんとか攻略の糸口を見つけてやろうと四苦八苦した感じは、
誰にも褒められることのないゲームソフトを
クリアしようとする姿に酷似した。
なんとか納得できる釣果を出せた時は、
得も言われぬ達成感に浸ることができた。
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