イトウは心に宿る55

Миру Україні

2025年02月18日 07:07

川の側に車道があり車も駐車できる据え膳だというのに、 
いざ魚釣りを開始せんとするも水辺への道が見つからず、
植物群落の要塞に阻まれ目の前の水辺まで人の侵攻を許さない。
少ないパイの奪い合いをする都市近郊しかり遠く離れた地方であっても、
釣場と思しき場所には踏み跡があり、
前人未踏の秘境と呼ぶに相応しい釣場など存在しないのが常である。
 とはいえここは秘境や桃源郷とは縁遠い牧歌的な様相で、
昔住んでいた家の裏にあったカムルチー池に歩いていくとか、
田舎の家のすぐそばを流れる川でヤマメを釣るような、
そんな身近にあった水辺を思わせた。
それなのに釣人が入った形跡が見当たらないのは、
膨大な水を湛える北海道水系に対して釣り人口は僅かばかりで、さらには
ヒグマという森の番人が腕組みして、
人の侵入に目を光らせているからかもしれない。
 竿を持ったままあっちこっちをうろうろしてようやく見つけたのは獣道。
後に橋と道路を歩く大きなエゾシカを見かけたので彼らの作った道らしかった。
これ幸いとお邪魔させてもらいようやく水辺に辿り着いた。
 恐る恐る岸際の水に足を浸けると泥炭のようだったがその下は硬い底を感じられ、
敷き詰められた小石の上に泥が被さっていた。
橋を背にして川の真ん中辺りまで進んで立ってみたが、
川底は平坦で増水している割に水深は膝上程度である。ただし水の押しは強い。
 ゆっくり流れを下りながら川魚が定位している場所を探す。
橋の上から見た岸際にある木陰を狙いたいが実際は簡単ではなく、
多くの樹木は枝を広げ岸から三メートルも陰を落としているが、
枝と水面との隙間は僅か、もしくは枝の葉が流れを撫でている。
その水面下にはきっと根や複雑に絡み合った流木などが堆積しているに違いなく、
安易にルアーを送り込めない。絶対そこに魚達は潜んでいるのに。
 指をくわえながら少しずつ下って行く。水深は浅いが水押しが強いので川底を慎重に確認しながら
歩みを進めていたが、一度歩みを止めて全体を見渡す。
単調な流れの開きには底に岩もなく魚が身を潜めるには乏しい地形だったが、
少し先に川幅一杯に広がる小さな落ち込みがあり、その先には長い瀬が続いていた。
橋の上からは直線的に思えた川だったが、
僅かにS字を描いた川を樹木が覆うことで瀬の存在を隠していたのだ。
 できるだけ泥煙を下流に流さないよう抜き足差し足忍び足でキャストする位置まで忍び寄る。
流れは左岸際を強く走り抜け流芯を作り、そこを除いた右岸までの残り八割は比較的大きな石が並び、
石を乗り越えた流れが白泡を立て幾筋かの流れを生んでいる。
僕が思う湿原河川の顔と違っていたが、川釣りにおいていかに好条件であるかは言うに及ばず。
さあこの季節、この状況、サケ科の魚達はどこに定位しているのか、
北海道の大自然が僕に問い掛ける。

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