イトウは心に宿る43

Миру Україні

2025年01月06日 07:07

イトウさておき、意中の魚を求めて車に乗り込む。
実のところその魚は窓から見下ろす小さな流れに泳いでいるのだけど、
ここは神聖なるシマフクロウの縄張りであるため、場を荒らすことは愚の骨頂。
糸を垂らすことを辞退して静かにその場を後にした。
明け方の空は鈍色で、ドライブするには不向きであるが魚釣り日和である。
こういった感覚が異性には理解し難いので、
いまだ愛を求め彷徨う独身釣人なら口に出すのはよした方がいい。

海沿いに車を走らせるものの目的地は決まっておらず、
しかしながらこの一帯全ての河川に生息しているはずなので、
入渓しやすい川を求めて幾つもの橋を越え、
同時に海岸をうろつくヒグマの姿にも気を配る。
北海道に来たならば日本最大の陸生哺乳類にも会いたい。
すぐさま撮影できるよう助手席には超望遠レンズを装着したままのカメラを置いている。

海岸には小さな流れ込みが幾つもあり、
流れ込みの両脇には必ず釣竿を持つ数人の姿があった。
シロザケかカラフトマスの回遊を狙っているように思うが、
釣り雑誌や釣り番組で見たことがある北海道の風物詩に出会えた。
ここでは琵琶湖名物の流れ込みに立ち込むような目を疑う惨劇はなく、
ひと目で釣りの基本と技量が一線を画すのをうかがい知れた。

これだけ海岸に釣人が占拠していればヒグマは現れないのだろうか、
少し残念な気持ちを抱えたまま、
自分の感性が反応を示した川に車を停めた。

この川でも海へ吐出す流れの両脇で釣人達が竿を振っていたが、
当然のことながら皆は沖に向かってルアーを放っている。
そんな釣人達の背後で僕はいまから渓流釣りをするのだけれど、
僕にとってこんな不思議な光景はない。
右岸に立つ僕が例えば、右を向いて竿を振れば海水にルアーが落ち、
左を向いて投げれば渓流にルアーが落ちる。
渓流と海の間には落差があり、
水量もさほど多くないため汽水域と呼べるほど立派なものはなく、
渓流と海が直結している。
右に投げれば海の魚が釣れ、左に投げれば渓流魚。なんだここは。


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