2022年10月25日
は?めんどくさ。釣場でジジイバサーが指示してきました。
コイ目コイ科タナゴ亜科タナゴ属
標準和名:白鰭田平 シロヒレタビラ
いつも99.9%創作ブログだけど今回は本当の話。
数十年振りにシロヒレタビラを釣った。
ふと初めて釣った時を思い出す。
それは中2の春で、まだまだ陽射しが恋しい季節だった。
朝が動き出す前から釣り好き同級生三人組で淀川水系へオオクチバス釣りに
やってきたものの、
急に体調不良に陥り熱も出てきてとてもじゃないけど
バス釣りをする気分になれなかった。
そこで僕だけ座ってできる釣りをすることにした。
ワンドの奥に静かで小さな水路があり、
そこへ延べ竿を差し出しモツゴを釣るつもりだったのに、
釣れてくれたのは婚姻色も鮮やかなシロヒレタビラの雄。
あまりの美しさに見惚れるのと同時に、
とんでもないのが釣れたと興奮。
それはまるで熱帯魚のようで、
これには同級生達もバス釣りそっちのけでタナゴ釣り開始。
今思えば季節的にシロヒレタビラが産卵のために本流から入ってきたのだろう。
あれからシロヒレタビラを釣ったことがなく、
釣れてくるのはそれ以外のタナゴ属。
またシロヒレタビラを釣ってみたい気持ちだけはぼんやりと心の奥にあった。
イトウ釣りから帰ってくるなり、
釣熱に浮かされたようにタナゴ竿を持って淀川水系へ赴いた。
初めてシロヒレタビラと出会った場所も覗いてみたし、
仕事帰りの夕方にめちゃくちゃタナゴ属を釣った場所もまだあった。
でも初日はタナゴ属には出会えなかった。
二日目は数尾のカネヒラが何度も回遊してヒラを打ちまくっているのを目撃し、
意地になって釣ろうとするも完全無視。
藻類を無心に喰っているが、
針に付いた甘い香りの練り餌はお気に召しませんか、はあそうですか。
イトウなんてあっさり釣れたのに、
タナゴ属相手にボーズを繰り返すとはなんという体たらく。
この釣りめっちゃ難しいやん。
そして三日目。
またしても見えているカネヒラに翻弄されて肩をすくめ、
それはまるでアカメのボイルに決定打を探しあぐねるように。
近くに居た釣人は虫エサだったが、
これまた首を傾げていたので互いに傷を舐めあった。
今日はこれくらいにしておいてやろうと、
ひと気のない場所へ釣座を構えた。
見えている魚が釣れないなら、見えていない魚を狙う魂胆だ。
アカメもそうして釣れるようになったから方向性は間違えていないはず。
静かに水中を覗いてみるも魚の姿は見えず、
しかしながら姿が見えないのは不安。
なにはともあれ、視界が効かない深い場所へ仕掛けを落としてみる。
十秒も待たないうちに仕掛けを上げて練り餌を付ければ仕掛けを落とす。
浮子や仕掛けの僅かな揺れも見逃せないし、
待っていても釣れないので、
打ち返しの速さも含めてルアー釣りのそれどころではない忙しさ。
すると背後に人の気配。
「そこじゃない」
は?
振り向くとルアータックルを手にした親より年上のお年寄り。
またなんちゅうルアーをぶら下げてるんや。
「ここ。ここにタナゴがおるから」
そう指差したのは座った僕の足元。
でた。めんどくさ。
魚の姿なんて見えてないし。
バサーの分際でタナゴのナニを知ったようにと訝しげな眼差しで、
またまた~と返した。
「おるよ。いつもパンくずを投げたら寄ってくるから」
それブルーギルでしょ?
「いや、タナゴや」
パンを投げても浮くでしょ?
「口に入れたのを投げるねん。そしたら沈むやろ」
汚いってほんま。
「練り餌落としたらわかるから」
はいはいやってみるわと練り餌を水に落としてみた。
するとどこからともなく集まる数尾のタナゴの影に、あ・・・・・・。
どうも失礼しました。
これはギルではなくタナゴのようです。
御親切にありがとうございました。
ご年配の頬が緩んだ。
五尺の竿から四尺の竿に仕掛けを結び直し、
さらに竿の真ん中辺りを摘まんでさっそく足元へ針を落としてみる。
すぐさま小気味好い引きで
0.3号の道糸が水面を走り回った。
抜き上げた魚の姿に息をのむ。
尻鰭が白い。
心の奥にあった想いが一斉に込み上げる。
シロヒレタビラ・・・・・・。
小さく手が震えるのがわかった。
恋の季節は春なので婚姻色こそ出ていないけれど、
光の加減で魚体にほんのり青い面影を落とす。
小さな水槽になまめく姿態に釘付けになり、
幾度となくシャッターボタンを押した後、
シロヒレタビラを元居た所へ静かに帰した。