2024年03月19日
イトウは心に宿る42
常連客のひとりが、この地鳴きは
シマフクロウが降りてくる合図だと言った。
その言葉は突如として現実のものとなり、
18:15雌のシマフクロウが目の前に現れた。
初めて見るその姿たるや神々しく、
アイヌ民族からコタン・クルカムイ(部落の神様)
としてあがめられてきた事実にも頷ける。
全長約70cm、翼を広げると約180cmにもなる国内最大のフクロウで、
鋭い眼光、強暴なるカギ爪、恐れを知らない佇まい、
それでいて美しい模様の羽を全身に纏い、
北海道水系の頂点に君臨する者である威厳に満ち溢れている。
シマフクロウの一挙一動をレンズ越しに追い、
黙秘権を行使したように口をつぐみ、
ミラーレス一眼の控えめな電子シャッター音が鳴り続ける。
泳ぐヤマメを捕まえ丸呑みし、
19:55遡上するサクラマスの腹に鋭い爪を食い込ませて捕らえ、
一同を驚かせた。
想像を遥かに超えた野生の営みを間近に観察でき、
高い入場料は保証のない博打だと思っていたのに、
料金の頭に1を足しても納得いく価格だ。
常連方いわく、僕達四人が並ぶ撮影位置は本当に好場所らしく、
他の場所は死角が大きくシマフクロウを追い切れないそうだ。
案内してくれたGGもとい男性スタッフが言った
「本当はここが一番いい」は本当だった。
後日談だが、この場所とスタッフがテレビ番組で紹介されているのを観て、
お変わりない姿が嬉しかった。
これだけで来た甲斐があったと喜んでいたのに、
21:14なんと母鳥の姿に安心したのか、
幼鳥(アオバズク大)二羽もやってきた。
これには常連様も声を出して驚き、
右隣りの方が
「奇跡だ。十数年撮影してきて三羽が揃うのを見たのは初めてだ」と言う。
今度は僕の方を見て
「初めて来たのに・・・・・・とてつもない強運の持ち主だよ」
と半ば呆れるように言い
「二度とないかも知れないからとにかく撮りまくろう」と急かした。
これも僕を喜ばせるリップサービスでしょと疑いそうになったが、
この方はさきほどまで、ほとんどシャッターを押していなかったのに、
今はファインダーを覗き込んだまま無言で連写しているので、
どうやら本当のことらしかった。
そもそもシマフクロウの雛は一羽しか育たないらしく、
今年は二羽とも育っていることが話題になっていたそうだ。
母親が子供達に給餌する姿が微笑ましく、
ひとしきりシャッターを押したあとは動画撮影に切り替えた。
息を止めてシャッターを押していた時と違い、
体の力を抜いて普段お目に掛かれない光景を客観的に眺めた。
シマフクロウを一目見られたら好運と思っていたのが、
ヤマメを捕獲して食べる姿や、飛翔、枝止まり、
さらには雛まで出現して給餌まで。
北海道水系の食物連鎖の頂点に君臨する天然記念物シマフクロウを
とことん堪能して感慨無量。
奇跡の時間は続くが似たようなシーンが繰り返されるので、
ちょいとコーヒー・ブレイク宣言。
コーヒーを飲みに行く際は一旦屋外に出るのだが、
左隣の方が一緒について行くと言った。
な、なぜに・・・・・・野郎と歩く趣味はないと一瞬戸惑ったが、
ついて来る理由はヒグマの存在だった。
右隣りの方が笑いながら「ヒグマがいるよ」と。
今いる場所から撮影したヒグマ画像を見せられたら、
後退りして返す言葉が見つからなかった。
やっぱりこの地は別格で、危険の境界線の上で生活をしている。
命がけで飲んだホットコーヒーは美味しさに輪をかけた。
時間に制約のない永遠の夏休みを満喫中の
常連御三方は撤退することになり、
またどこかで会う約束をし、
あとは僕が好場所を独り占めすることになった。
暖房の温風が体をほぐし、穏やかに微睡む。
たまに薄目で窓の外を確認してまた微睡む。
好きなことを好きなだけ心行くまで楽しむ贅沢。
2:11夢か幻か、雌より小振りで雛より大きい
シマフクロウが飛来した。
どうも思考回路が鈍くなっているらしく、
その正体にしばらく気づかなかったが、
ぼんやり眺めて気がづいた。シマフクロウの雄親だ。
親子四羽が揃っていることに驚き、ようやく目が覚めた。
三羽でも奇跡だと言われたのに、これはどう例えよう。
もはやこの瞬間を撮影できる者は僕唯一人。
雌親が雛に給餌していたように、
雄親もヤマメを捕まえて雛に与えようとするのだが、
雛達はそれを拒んで飛んで行き、
銜えたままのヤマメをどうしようか戸惑う雄親を見て
僕はずっこける。
そんなことを二回繰り返し、
野鳥の世界にもある親の心子知らずの言葉が浮かんできた。
天然記念物シマフクロウ親子の貴重な記録を残すこができ、
一生の思い出を作ることができた。
辺りが白み始める頃にはシマフクロウ一家は森に帰り、
一日の終わりを告げる朝陽が昇ろうとしていた。
ひと眠りする前に、
白光錦川から遠くない川で朝まずめの魚釣りをしたくなり、
あの魚種を狙うことにした。
僕の中でイトウが陽ならその魚は陰。
エゾイワナ(アメマス)のように北海道水系のみに生息する、
これまで表に出すことがなく心に秘めていた意中の魚。
イトウさておき、北海道に来たならこの魚は絶対に釣る。
シマフクロウが降りてくる合図だと言った。
その言葉は突如として現実のものとなり、
18:15雌のシマフクロウが目の前に現れた。
初めて見るその姿たるや神々しく、
アイヌ民族からコタン・クルカムイ(部落の神様)
としてあがめられてきた事実にも頷ける。
全長約70cm、翼を広げると約180cmにもなる国内最大のフクロウで、
鋭い眼光、強暴なるカギ爪、恐れを知らない佇まい、
それでいて美しい模様の羽を全身に纏い、
北海道水系の頂点に君臨する者である威厳に満ち溢れている。
シマフクロウの一挙一動をレンズ越しに追い、
黙秘権を行使したように口をつぐみ、
ミラーレス一眼の控えめな電子シャッター音が鳴り続ける。
泳ぐヤマメを捕まえ丸呑みし、
19:55遡上するサクラマスの腹に鋭い爪を食い込ませて捕らえ、
一同を驚かせた。
想像を遥かに超えた野生の営みを間近に観察でき、
高い入場料は保証のない博打だと思っていたのに、
料金の頭に1を足しても納得いく価格だ。
常連方いわく、僕達四人が並ぶ撮影位置は本当に好場所らしく、
他の場所は死角が大きくシマフクロウを追い切れないそうだ。
案内してくれたGGもとい男性スタッフが言った
「本当はここが一番いい」は本当だった。
後日談だが、この場所とスタッフがテレビ番組で紹介されているのを観て、
お変わりない姿が嬉しかった。
これだけで来た甲斐があったと喜んでいたのに、
21:14なんと母鳥の姿に安心したのか、
幼鳥(アオバズク大)二羽もやってきた。
これには常連様も声を出して驚き、
右隣りの方が
「奇跡だ。十数年撮影してきて三羽が揃うのを見たのは初めてだ」と言う。
今度は僕の方を見て
「初めて来たのに・・・・・・とてつもない強運の持ち主だよ」
と半ば呆れるように言い
「二度とないかも知れないからとにかく撮りまくろう」と急かした。
これも僕を喜ばせるリップサービスでしょと疑いそうになったが、
この方はさきほどまで、ほとんどシャッターを押していなかったのに、
今はファインダーを覗き込んだまま無言で連写しているので、
どうやら本当のことらしかった。
そもそもシマフクロウの雛は一羽しか育たないらしく、
今年は二羽とも育っていることが話題になっていたそうだ。
母親が子供達に給餌する姿が微笑ましく、
ひとしきりシャッターを押したあとは動画撮影に切り替えた。
息を止めてシャッターを押していた時と違い、
体の力を抜いて普段お目に掛かれない光景を客観的に眺めた。
シマフクロウを一目見られたら好運と思っていたのが、
ヤマメを捕獲して食べる姿や、飛翔、枝止まり、
さらには雛まで出現して給餌まで。
北海道水系の食物連鎖の頂点に君臨する天然記念物シマフクロウを
とことん堪能して感慨無量。
奇跡の時間は続くが似たようなシーンが繰り返されるので、
ちょいとコーヒー・ブレイク宣言。
コーヒーを飲みに行く際は一旦屋外に出るのだが、
左隣の方が一緒について行くと言った。
な、なぜに・・・・・・野郎と歩く趣味はないと一瞬戸惑ったが、
ついて来る理由はヒグマの存在だった。
右隣りの方が笑いながら「ヒグマがいるよ」と。
今いる場所から撮影したヒグマ画像を見せられたら、
後退りして返す言葉が見つからなかった。
やっぱりこの地は別格で、危険の境界線の上で生活をしている。
命がけで飲んだホットコーヒーは美味しさに輪をかけた。
時間に制約のない永遠の夏休みを満喫中の
常連御三方は撤退することになり、
またどこかで会う約束をし、
あとは僕が好場所を独り占めすることになった。
暖房の温風が体をほぐし、穏やかに微睡む。
たまに薄目で窓の外を確認してまた微睡む。
好きなことを好きなだけ心行くまで楽しむ贅沢。
2:11夢か幻か、雌より小振りで雛より大きい
シマフクロウが飛来した。
どうも思考回路が鈍くなっているらしく、
その正体にしばらく気づかなかったが、
ぼんやり眺めて気がづいた。シマフクロウの雄親だ。
親子四羽が揃っていることに驚き、ようやく目が覚めた。
三羽でも奇跡だと言われたのに、これはどう例えよう。
もはやこの瞬間を撮影できる者は僕唯一人。
雌親が雛に給餌していたように、
雄親もヤマメを捕まえて雛に与えようとするのだが、
雛達はそれを拒んで飛んで行き、
銜えたままのヤマメをどうしようか戸惑う雄親を見て
僕はずっこける。
そんなことを二回繰り返し、
野鳥の世界にもある親の心子知らずの言葉が浮かんできた。
天然記念物シマフクロウ親子の貴重な記録を残すこができ、
一生の思い出を作ることができた。
辺りが白み始める頃にはシマフクロウ一家は森に帰り、
一日の終わりを告げる朝陽が昇ろうとしていた。
ひと眠りする前に、
白光錦川から遠くない川で朝まずめの魚釣りをしたくなり、
あの魚種を狙うことにした。
僕の中でイトウが陽ならその魚は陰。
エゾイワナ(アメマス)のように北海道水系のみに生息する、
これまで表に出すことがなく心に秘めていた意中の魚。
イトウさておき、北海道に来たならこの魚は絶対に釣る。
2024年03月18日
イトウは心に宿る41
またしても変化に乏しい道のりを延々と進む。
前方にも後方にも走行車はなく、
対向車すらすれ違うことが稀であり、
次第にハイウェイ・ヒプノーシスが歩み寄る地獄道。
今後、北海道ツーリングやドライブは一生ないと確信。
暇潰しもとい、概ちゃんの声を聞きたく通話を試みるも
電波がない。見えない塀に覆われた広大な牢獄。
あるとき五頭のエゾシカ♀が対向車線を
全力で逆走するのを見て、
さらに二十五分後に牧草地で
タンチョウ雌雄が寄りそう姿を見ることができた。
この二つだけが大きな変化だった。
当初はマップが案内する目的地までの残り時間と距離に
目眩がしそうだったが、
白光錦川の手前にあるセイコーマートの存在が鼓舞となる。
もはやゴール地点に等しい存在のセコマに到着するも、
タイミングが悪かったのかホットシェフがなく、
それは一目でわかったのに、
わざわざ妙齢の女性に声を掛けて久しぶりに人間の声を堪能。
幸いなことに次のセコマが数分先にもあったので、
店内に入るとまたもやキンッキンに染めた
金髪日本人女性スタッフに出会った。
その日の夜は別の店舗でも髪の根元は黒いが
キンッキンに染めた女性スタッフがおられたので、
どうやらこちらでは金髪ブームが来ていることを確信。
目的地に到着したのは夕暮れ間近で、
そこは想像を越えた僻地だった。
白光錦川の畔に車を駐車すると、いきなりカワガラスがお出迎え。
ちょいとこれから行う撮影の肩慣らしにさせてもらった。
ここに来たのは北海道旅行五大目的のひとつ
天然記念物シマフクロウに会うためだ。
北海道といえばイトウさておきシマフクロウで、
シマフクロウに会わずしてなにが北海道旅行だ。
イトウは単独で探釣するが、
旅行中にシマフクロウを探鳥して撮影するのは極めて不可能に近く、
夜間のシマフクロウを撮影できる施設に遥々やってきた。
受付けを澄ませると、ご高齢男性スタッフに
撮影場所を案内してもらうのだが、
僕と同じタイミングで来た予約客を先に案内し、
その客に「ここが一番いいから」と声を掛けた。
その次に、飛び込み客の僕をその先にある撮影場所まで
案内してくれたのだが、「本当はここが一番いいから」と言った。
みんなにそう言って安心させる魔法の言葉らしい。
ご高齢男性スタッフはぶっきらぼうな言い方なのに
なんだかんだと世話焼きで、また受付の場所まで戻らされ、
無料コーヒーメーカーの使い方や、
本当にシマフクロウが見られるのか訝しむ僕に、
出現時間や場所を丁寧に説明してくれた。
それらが終ると撮影場所に戻って石油ファンヒーターの使い方を
指南しようとするので、ボタンを押すだけでしょうと
丁重にお断りしたが、
しばらくして灯油缶を持って現れ、満タンにしてくださった。
日中は半袖なのに夜間は暖房が必須で、
陽が西に沈むとあっという間に冷蔵庫の中。
僻地は命に関わる危険の境界線で生きていることを実感する。
三脚をセットしていると、三人の客が順番に入ってきた。
照明は厳禁なので顔は確認できないものの、
期待する妙齢女性でないのは間違いなかった。
一見客は僕だけで皆様は常連らしい。
シマフクロウ出現時間は直近のデータから推測するに
しばらく待機時間になるらしく、しばし談笑。
みなさま定年を過ぎたリタイア組らしく、永遠の夏休み真っ盛り。
右隣りの方は地元のシマフクロウ愛好家で、
左隣に座る方は奥さんを置いてけぼりにして北海道に半移住している方、
もうひとつ向こうに座る方は、なんと九州から定期的に
シマフクロウ撮影に通う変態カメラマン。
とはいえ飛行機だと日本のどこから来ても似たようなものか。
そして左隣の北海道に半移住している方との出会いは奇跡だった。
ハイシーズンだけ北海道に住んでいるらしく、
本当の家はなななんとご近所さん。本当に!?とお互い絶句。
こんな僻地まで来てマイノリティな趣味を持つご近所さんに会うなんて。
いや、それにしても調子を合わせて言っているんじゃないの~と訝しむも、
その方が「六麓荘町にあるスーパー玉出はよく行きますよ」と言うので、
僕ももやしの一円セールの時は必ず行きますと答え、
「ということは六麓荘町のダイソーにも?」と言うので、
もちろんダイソーは生命線ですからと答えた。
「もしかしてヴェイロンが停まっているプール付きのお屋敷でしょうか」
と言われると全力で否定し、プールは維持費が大変なので、
庭には猫の額ほどのテニスコートが二面しかございませんことよと答えた。
闇のカーテンがうっそうと垂れこめる中、
山間に一発のシマフクロウの重厚感ある鳴き声が響くと緊張が走った。
前方にも後方にも走行車はなく、
対向車すらすれ違うことが稀であり、
次第にハイウェイ・ヒプノーシスが歩み寄る地獄道。
今後、北海道ツーリングやドライブは一生ないと確信。
暇潰しもとい、概ちゃんの声を聞きたく通話を試みるも
電波がない。見えない塀に覆われた広大な牢獄。
あるとき五頭のエゾシカ♀が対向車線を
全力で逆走するのを見て、
さらに二十五分後に牧草地で
タンチョウ雌雄が寄りそう姿を見ることができた。
この二つだけが大きな変化だった。
当初はマップが案内する目的地までの残り時間と距離に
目眩がしそうだったが、
白光錦川の手前にあるセイコーマートの存在が鼓舞となる。
もはやゴール地点に等しい存在のセコマに到着するも、
タイミングが悪かったのかホットシェフがなく、
それは一目でわかったのに、
わざわざ妙齢の女性に声を掛けて久しぶりに人間の声を堪能。
幸いなことに次のセコマが数分先にもあったので、
店内に入るとまたもやキンッキンに染めた
金髪日本人女性スタッフに出会った。
その日の夜は別の店舗でも髪の根元は黒いが
キンッキンに染めた女性スタッフがおられたので、
どうやらこちらでは金髪ブームが来ていることを確信。
目的地に到着したのは夕暮れ間近で、
そこは想像を越えた僻地だった。
白光錦川の畔に車を駐車すると、いきなりカワガラスがお出迎え。
ちょいとこれから行う撮影の肩慣らしにさせてもらった。
ここに来たのは北海道旅行五大目的のひとつ
天然記念物シマフクロウに会うためだ。
北海道といえばイトウさておきシマフクロウで、
シマフクロウに会わずしてなにが北海道旅行だ。
イトウは単独で探釣するが、
旅行中にシマフクロウを探鳥して撮影するのは極めて不可能に近く、
夜間のシマフクロウを撮影できる施設に遥々やってきた。
受付けを澄ませると、ご高齢男性スタッフに
撮影場所を案内してもらうのだが、
僕と同じタイミングで来た予約客を先に案内し、
その客に「ここが一番いいから」と声を掛けた。
その次に、飛び込み客の僕をその先にある撮影場所まで
案内してくれたのだが、「本当はここが一番いいから」と言った。
みんなにそう言って安心させる魔法の言葉らしい。
ご高齢男性スタッフはぶっきらぼうな言い方なのに
なんだかんだと世話焼きで、また受付の場所まで戻らされ、
無料コーヒーメーカーの使い方や、
本当にシマフクロウが見られるのか訝しむ僕に、
出現時間や場所を丁寧に説明してくれた。
それらが終ると撮影場所に戻って石油ファンヒーターの使い方を
指南しようとするので、ボタンを押すだけでしょうと
丁重にお断りしたが、
しばらくして灯油缶を持って現れ、満タンにしてくださった。
日中は半袖なのに夜間は暖房が必須で、
陽が西に沈むとあっという間に冷蔵庫の中。
僻地は命に関わる危険の境界線で生きていることを実感する。
三脚をセットしていると、三人の客が順番に入ってきた。
照明は厳禁なので顔は確認できないものの、
期待する妙齢女性でないのは間違いなかった。
一見客は僕だけで皆様は常連らしい。
シマフクロウ出現時間は直近のデータから推測するに
しばらく待機時間になるらしく、しばし談笑。
みなさま定年を過ぎたリタイア組らしく、永遠の夏休み真っ盛り。
右隣りの方は地元のシマフクロウ愛好家で、
左隣に座る方は奥さんを置いてけぼりにして北海道に半移住している方、
もうひとつ向こうに座る方は、なんと九州から定期的に
シマフクロウ撮影に通う変態カメラマン。
とはいえ飛行機だと日本のどこから来ても似たようなものか。
そして左隣の北海道に半移住している方との出会いは奇跡だった。
ハイシーズンだけ北海道に住んでいるらしく、
本当の家はなななんとご近所さん。本当に!?とお互い絶句。
こんな僻地まで来てマイノリティな趣味を持つご近所さんに会うなんて。
いや、それにしても調子を合わせて言っているんじゃないの~と訝しむも、
その方が「六麓荘町にあるスーパー玉出はよく行きますよ」と言うので、
僕ももやしの一円セールの時は必ず行きますと答え、
「ということは六麓荘町のダイソーにも?」と言うので、
もちろんダイソーは生命線ですからと答えた。
「もしかしてヴェイロンが停まっているプール付きのお屋敷でしょうか」
と言われると全力で否定し、プールは維持費が大変なので、
庭には猫の額ほどのテニスコートが二面しかございませんことよと答えた。
闇のカーテンがうっそうと垂れこめる中、
山間に一発のシマフクロウの重厚感ある鳴き声が響くと緊張が走った。
2024年03月14日
イトウは心に宿る40
なんだったらイト・ウは年間で少しの間しか狙わないらしく、
もっともその一番美味しい釣期は地元釣人の特権であり、
湿原の川は雪と氷の要塞に鎖されるため、
余所者が挑戦を試みたならば命を落とすことだろう。
さすが北の魚、水温に反比例して高活性なのか。
そんな北の釣人達が夢中になる魚は外来魚。
それは2項で述べた、ブレットンを喰ってくれた魚種で、
このチチハズミ川をはじめ色々な川で野生化および繁殖しており、
しかも俄かに信じられないサイズが泳ぐという。
降海型ならまだしも、そんな大形がいる雰囲気はなかったことを伝えると、
僕が見た場所はほんの一部であり、
まだ水嵩が高いので潜む場所も不明瞭らしく、
水が落ち着けば樹木に隠れて息を潜めて待っていると、
ある場所でヤツが浮いてくるそうだ。
そいつは非常に警戒心が強くルアーは喰わないので、
羽化して流下する水生昆虫に合わせたマッチ・ザ・ハッチで狙い、
ただし、倒木や流木などが複雑に絡むややこしい場所なので、
フライタックルでまともにファイトできようはずもなく、
魚が走れば自分は泳いで魚を追いかけるスパルタン・スタイル。
なのでイト・ウの引きは目じゃないと笑った。
ちなみにその信じられないサイズをまだ釣り上げられないらしく、
そりゃ夢中になるわと僕も笑った。
魚釣りは釣れても行きたくなり、釣れないとさらに燃える。
なぜ釣れない、次の一手をどうするか、そうこうしているうちに、
うっかり四十余年も魚釣りに染まったままだ。
そんな釣れない巨大魚のジグソーバズル80x70sizeを
部屋の壁に飾ってある。Randy McgovernのSwim Meet 、
記憶が正しければ1996年頃に作ったはずだ。
最後に釣人は、僕が旅の間に訪れる湿原河川について、
それらはヒグマの巣窟であり、足跡をいくらでも見るそうで、
僕のヒグマ対策は万全か不安な表情で覗きこみ、
本当に危ないからなと厳しい口調で言った。
ここまで言われると僕は急に不安になった。
すると思い立ったように釣人は後ろに停めてある
黒い四輪駆動車に戻り、
あったあったなんて言いながら熊除けの御利益がある
高額な壺を手に、
「今なら特別に金利・手数料は当者負担の50%オフにさせていただき、
そしてなんと!秋の下取り祭り開催中なので、
いいですか!?お手持ちの壺を三万円で下取りします!
この機会をお見逃しなく!で、いま現金はお持ちでしょうか?」
なんてことを言い出すのではないかと身構えた。
だがよくよく聞いてみると今だけのお買い得ならと
即決してしまいそうだ。
ただ残念なことに自慢の愛壺は家に置いてきたので
下取りしてもらえない。
実のところ批判を恐れず言うならば僕はヒグマと遭遇したい。
襲われたくないけれど撮影はしたいのだ。
よって僕は地元釣人のヒグマ対策より、
遭遇率や出没ポイントや過去の経験談を聞きたかったので、
これ幸いとばかりに、
四十余年も水辺に立ってヒグマに遭遇したことは?
「ない」
ないんかーい。
でもあれでしょ、
数秒後に襲われるかもしれないってことやね?
釣人は「そうだ」と神妙な面持ちで頷いた。
釣人はおもむろにタバコに火を付けた。
これは残念、喫煙の許可を求めて欲しかった。
ご遠慮願いますと言ったのに。
吸っていいですかと聞かれたら誰しもどうぞと言いがちだが、
嫌に決まっている。心の中でお気の毒と蔑んでいる。
これまで会話をしている間は感染予防で距離を空けていたが、
健康を害する臭い煙が髪や服に付着しないよう風上に回った。
その後、当然のように吸殻を草むらに放り投げた。
さすが安定の喫煙者クオリティ、期待を裏切らないクズ行動。
箱に書かれている文章が理解できないのも頷け、
人前でこれなのだから普段から無神経なことをしているに違いなく、
大損していることにも気付かない。そして誰も教えてくれない。
北の大地の釣人との交流時間が興ざめに終わった。
チチハズミ川のエゾイワナとの出会いに感謝し、
河川の増水や次なる目的を鑑みて計画を頭の中に巡らせる。
やっぱりイトウは最後でいいにして、
次なる目的はヤツだ、イトウさておきヤツにする。
日本の固有種で北海道の川だけに生息し、
生息数はイトウより遥かに少ない希少種だ。
ヤマメやアメマスを丸呑みしサクラマスをも襲う、
サディスティックな部分に惹かれる。
時計を確認すると時刻は正午、
いま出発すれば夕方までに現地へ到着できるはず。
お留守番中の概ちゃんに、
断腸の思いで今夜は帰らないと連絡を入れ、
白光錦川へ向かった。
すぐに返信があり、行間から喜びが滲み出ていると書かれていた。
もっともその一番美味しい釣期は地元釣人の特権であり、
湿原の川は雪と氷の要塞に鎖されるため、
余所者が挑戦を試みたならば命を落とすことだろう。
さすが北の魚、水温に反比例して高活性なのか。
そんな北の釣人達が夢中になる魚は外来魚。
それは2項で述べた、ブレットンを喰ってくれた魚種で、
このチチハズミ川をはじめ色々な川で野生化および繁殖しており、
しかも俄かに信じられないサイズが泳ぐという。
降海型ならまだしも、そんな大形がいる雰囲気はなかったことを伝えると、
僕が見た場所はほんの一部であり、
まだ水嵩が高いので潜む場所も不明瞭らしく、
水が落ち着けば樹木に隠れて息を潜めて待っていると、
ある場所でヤツが浮いてくるそうだ。
そいつは非常に警戒心が強くルアーは喰わないので、
羽化して流下する水生昆虫に合わせたマッチ・ザ・ハッチで狙い、
ただし、倒木や流木などが複雑に絡むややこしい場所なので、
フライタックルでまともにファイトできようはずもなく、
魚が走れば自分は泳いで魚を追いかけるスパルタン・スタイル。
なのでイト・ウの引きは目じゃないと笑った。
ちなみにその信じられないサイズをまだ釣り上げられないらしく、
そりゃ夢中になるわと僕も笑った。
魚釣りは釣れても行きたくなり、釣れないとさらに燃える。
なぜ釣れない、次の一手をどうするか、そうこうしているうちに、
うっかり四十余年も魚釣りに染まったままだ。
そんな釣れない巨大魚のジグソーバズル80x70sizeを
部屋の壁に飾ってある。Randy McgovernのSwim Meet 、
記憶が正しければ1996年頃に作ったはずだ。
最後に釣人は、僕が旅の間に訪れる湿原河川について、
それらはヒグマの巣窟であり、足跡をいくらでも見るそうで、
僕のヒグマ対策は万全か不安な表情で覗きこみ、
本当に危ないからなと厳しい口調で言った。
ここまで言われると僕は急に不安になった。
すると思い立ったように釣人は後ろに停めてある
黒い四輪駆動車に戻り、
あったあったなんて言いながら熊除けの御利益がある
高額な壺を手に、
「今なら特別に金利・手数料は当者負担の50%オフにさせていただき、
そしてなんと!秋の下取り祭り開催中なので、
いいですか!?お手持ちの壺を三万円で下取りします!
この機会をお見逃しなく!で、いま現金はお持ちでしょうか?」
なんてことを言い出すのではないかと身構えた。
だがよくよく聞いてみると今だけのお買い得ならと
即決してしまいそうだ。
ただ残念なことに自慢の愛壺は家に置いてきたので
下取りしてもらえない。
実のところ批判を恐れず言うならば僕はヒグマと遭遇したい。
襲われたくないけれど撮影はしたいのだ。
よって僕は地元釣人のヒグマ対策より、
遭遇率や出没ポイントや過去の経験談を聞きたかったので、
これ幸いとばかりに、
四十余年も水辺に立ってヒグマに遭遇したことは?
「ない」
ないんかーい。
でもあれでしょ、
数秒後に襲われるかもしれないってことやね?
釣人は「そうだ」と神妙な面持ちで頷いた。
釣人はおもむろにタバコに火を付けた。
これは残念、喫煙の許可を求めて欲しかった。
ご遠慮願いますと言ったのに。
吸っていいですかと聞かれたら誰しもどうぞと言いがちだが、
嫌に決まっている。心の中でお気の毒と蔑んでいる。
これまで会話をしている間は感染予防で距離を空けていたが、
健康を害する臭い煙が髪や服に付着しないよう風上に回った。
その後、当然のように吸殻を草むらに放り投げた。
さすが安定の喫煙者クオリティ、期待を裏切らないクズ行動。
箱に書かれている文章が理解できないのも頷け、
人前でこれなのだから普段から無神経なことをしているに違いなく、
大損していることにも気付かない。そして誰も教えてくれない。
北の大地の釣人との交流時間が興ざめに終わった。
チチハズミ川のエゾイワナとの出会いに感謝し、
河川の増水や次なる目的を鑑みて計画を頭の中に巡らせる。
やっぱりイトウは最後でいいにして、
次なる目的はヤツだ、イトウさておきヤツにする。
日本の固有種で北海道の川だけに生息し、
生息数はイトウより遥かに少ない希少種だ。
ヤマメやアメマスを丸呑みしサクラマスをも襲う、
サディスティックな部分に惹かれる。
時計を確認すると時刻は正午、
いま出発すれば夕方までに現地へ到着できるはず。
お留守番中の概ちゃんに、
断腸の思いで今夜は帰らないと連絡を入れ、
白光錦川へ向かった。
すぐに返信があり、行間から喜びが滲み出ていると書かれていた。
2024年03月12日
イトウは心に宿る39
僕を試しているらしいが、
自信を持って別女穴川だと答えた。
マーキングを施したマップを見せると、
感心したようにこれはいい所を押さえていると唸り、
何もアドバイスせずともあんたなら釣るだろうなと言った。
でもちょっと言わせて欲しいことがあるらしく、
どうぞと笑顔で答えた。
この支流にイト・ウはいないぞと言ったのがひとつ、
もうひとつはマーキングしていない場所を指し、
この辺りが抜けていると言うので、
イトウの習性からして、この季節の水温だとこの辺りにはいないと
判断したと回答すると、学術的には間違いないが、
実際はこの辺りに年中留まっていると教えてくれた。
そもそも一本の川だけでも膨大な流量があり、
そのほとんどが人間の侵入を阻む自然の要塞で、
イトウの生息数の確認は困難なのではないかと思わされる。
ただし学者は現地調査したデータを基に絶滅の危機に瀕していると
発表しているのであり、
釣人がイトウの個体数は多いと声を上げたところで、
説得力のあるデータを示せなければ証明は難しいかもしれない。
釣人が指摘したその辺りとやらは、
車が近づけないどころか歩いて川に出られる場所ではなかった。
すると不敵な笑みを浮かべた釣人が話をすり替え、
次の質問をしてきた。
「イト・ウはどこに潜んでいると思う?」と。
これは簡単だ。
こういう場所のここに潜んでいると回答したなら
「だろ?」間、髪入れずそうくると思ったと言い、、
「みんなそう言うんだ」と、またもや不敵な笑みを浮かべた。
確かに僕の推測は間違いではないが、
実はイト・ウはこういう所にも潜んでいるのだと。
なるほど、僕も負けてはおれず即座に、
ということはその場所ならここに定位するだろうと
ピンポイントを指摘すれば「そういうことだ」と釣人は微笑んだ。
そのイト・ウを狙う際のルアーの動きが大切でなと言い、
意固地な僕が知りたくなさそうな話だが、参考までにお願いした。
「このルアーのこの動き・・・・・・絶対だから」
この動きがイト・ウに効果的だと知ってからは、
まったく釣果が違ってきたらしく、
釣れなかったのに、このルアーでこの動きをしたら
食ってきたことで、魚は居たんだと気づいたと。
その後は、この動きを試して釣れなかったらポイントを見切るとのこと。
なるほど、この動きはルアーは違えど、
あの釣りで絶対的な動きであり僕の大好きな釣り方だ。
ということは、こうしてこうした時にドン!でしょ?
「わかってるね~」と釣人は笑い、
この動きは絶対だからと念を押された。
じゃあもうひとつお節介させてくれと釣人は言い、
釣る釣らないは僕の勝手でいいが、
本場のイトウが生息する場所を一目見て行けと。
この申し出を無下にするのは失礼にあたると思い、是非とお願いした。
先ほどマップで示していなかったイトウが潜むポイントに話は戻り、
そこは釣人のプライベート・ポイントだと言った。
というのもそこは親類宅の土地であり、
家の前を通ってその先にある門の鍵が必要なため、
当然許可が必要となる。
なんだかロールプレイングゲームになってきたぞ。
実はSNSにアップしたところで誰も入れないどころか、
場所の特定すら不可能な地帯。
そこへは上流からも下流からも岸伝いの移動が不可能だし、
カヌーですら倒木等々で辿り着くのは困難なのだとか。
もちろんヒグマ出没地帯。
ただし今は増水で釣りはおろか、浸水林となり近寄ることができず、
落ち着くまで三日はかかるとのこと。
親類宅へのご挨拶時の合言葉を決め、
ありがたく訪問させて頂くことにした。
確認していないが釣人は年齢も同じくらいで、
お互いうっかり四十余年も魚釣りを嗜んできたので、
釣り談義が弾みまくる。
ここまでイト・ウの魅力を語ってくれたのに、
彼らの間ではもっと狡猾で強烈な魚種が人気なのだという。
自信を持って別女穴川だと答えた。
マーキングを施したマップを見せると、
感心したようにこれはいい所を押さえていると唸り、
何もアドバイスせずともあんたなら釣るだろうなと言った。
でもちょっと言わせて欲しいことがあるらしく、
どうぞと笑顔で答えた。
この支流にイト・ウはいないぞと言ったのがひとつ、
もうひとつはマーキングしていない場所を指し、
この辺りが抜けていると言うので、
イトウの習性からして、この季節の水温だとこの辺りにはいないと
判断したと回答すると、学術的には間違いないが、
実際はこの辺りに年中留まっていると教えてくれた。
そもそも一本の川だけでも膨大な流量があり、
そのほとんどが人間の侵入を阻む自然の要塞で、
イトウの生息数の確認は困難なのではないかと思わされる。
ただし学者は現地調査したデータを基に絶滅の危機に瀕していると
発表しているのであり、
釣人がイトウの個体数は多いと声を上げたところで、
説得力のあるデータを示せなければ証明は難しいかもしれない。
釣人が指摘したその辺りとやらは、
車が近づけないどころか歩いて川に出られる場所ではなかった。
すると不敵な笑みを浮かべた釣人が話をすり替え、
次の質問をしてきた。
「イト・ウはどこに潜んでいると思う?」と。
これは簡単だ。
こういう場所のここに潜んでいると回答したなら
「だろ?」間、髪入れずそうくると思ったと言い、、
「みんなそう言うんだ」と、またもや不敵な笑みを浮かべた。
確かに僕の推測は間違いではないが、
実はイト・ウはこういう所にも潜んでいるのだと。
なるほど、僕も負けてはおれず即座に、
ということはその場所ならここに定位するだろうと
ピンポイントを指摘すれば「そういうことだ」と釣人は微笑んだ。
そのイト・ウを狙う際のルアーの動きが大切でなと言い、
意固地な僕が知りたくなさそうな話だが、参考までにお願いした。
「このルアーのこの動き・・・・・・絶対だから」
この動きがイト・ウに効果的だと知ってからは、
まったく釣果が違ってきたらしく、
釣れなかったのに、このルアーでこの動きをしたら
食ってきたことで、魚は居たんだと気づいたと。
その後は、この動きを試して釣れなかったらポイントを見切るとのこと。
なるほど、この動きはルアーは違えど、
あの釣りで絶対的な動きであり僕の大好きな釣り方だ。
ということは、こうしてこうした時にドン!でしょ?
「わかってるね~」と釣人は笑い、
この動きは絶対だからと念を押された。
じゃあもうひとつお節介させてくれと釣人は言い、
釣る釣らないは僕の勝手でいいが、
本場のイトウが生息する場所を一目見て行けと。
この申し出を無下にするのは失礼にあたると思い、是非とお願いした。
先ほどマップで示していなかったイトウが潜むポイントに話は戻り、
そこは釣人のプライベート・ポイントだと言った。
というのもそこは親類宅の土地であり、
家の前を通ってその先にある門の鍵が必要なため、
当然許可が必要となる。
なんだかロールプレイングゲームになってきたぞ。
実はSNSにアップしたところで誰も入れないどころか、
場所の特定すら不可能な地帯。
そこへは上流からも下流からも岸伝いの移動が不可能だし、
カヌーですら倒木等々で辿り着くのは困難なのだとか。
もちろんヒグマ出没地帯。
ただし今は増水で釣りはおろか、浸水林となり近寄ることができず、
落ち着くまで三日はかかるとのこと。
親類宅へのご挨拶時の合言葉を決め、
ありがたく訪問させて頂くことにした。
確認していないが釣人は年齢も同じくらいで、
お互いうっかり四十余年も魚釣りを嗜んできたので、
釣り談義が弾みまくる。
ここまでイト・ウの魅力を語ってくれたのに、
彼らの間ではもっと狡猾で強烈な魚種が人気なのだという。
2024年03月11日
イトウは心に宿る38
見知らぬ男性がおもむろに
「あるで」
車で信号待ちをしていると窓をノックされ、
密売人が声を掛けてくる。
同じく信号待ちで窓をノックして
「ヤクルトいかがですか」と声を掛けてくるヤクルトおばさん。
もっと凄いのはマラソン大会のランナーと並走して
「ヤクルトいかがですか」と追いかけてくるヤクルトおばさん。
これらは決して大阪名物ではなく、
全国でもポピュラーな声掛けあるあるだと思うが、
ここ北海道で声を掛けてきた同年代と思しき男性の場合はこうだった。
「水は落ち着いていましたか」
まったく笑いのネタになりそうな言葉でもなく、
胸元に峡谷がのぞく女性でもない非常につまらない展開だが、
魚釣りができるか確認するための質問だったため、
いましがた釣りが成立したことを伝えた。
この一言二言のラリーで釣人はイントネーションの違いを
見抜いたらしく、車のナンバーを見て
「札幌ナンバー!?また遠い所から」と感心していたが、
おもいっきり関西弁やしとツッコミそうになった。
恐る恐る遠路はるばるやってきたことを伝えると、
遠方からやってきた僕を歓迎してくれた。
このご時世、新型コロナを警戒されてもおかしくないのに、
申し訳ない気持ちであるのとワクチン接種をしていることを伝え、
僕は胸を撫で下ろした。
釣人は、なぜこんな所まで魚釣りをしにきたのか尋ねるので、
簡潔に答えを述べると驚き、それは宿命だなと笑った。
そんな幼い頃からイトウに憧れていたならぜひ釣ってほしいと言ったが、
イトウは自分で辿り着きたいので、
くれぐれもポイントの教示はご遠慮願う旨を強調した。
それにしても違和感がある。
僕は釣人が発するイトウに違和感があり、
どうにも会話が頭に入ってこない。
イトウの発音はイトウだと思って生きてきたし、
発音が命のアナウンサーもイトウと発音する。
なのにこの釣人はイトウをイト・ウと発音する。
近い発音はカワウだが、もっとウを上げて発音する。
こ、これが本場の発音なのだろうか・・・・・・、
郷に入ればなんとやらだが、ウと言った途端に
失笑しそうで真似ることができやしない。
釣人は僕が憧れるイトウが泳ぐ川の畔に生まれ、
魚釣りを覚えたのもお互い幼少期だったこともあり、
釣り談義は同じ領域で展開する。
僕は最も気になっていた質問をした。
イトウは幻なのかと。
すると釣人は決して幻ではないと言い、その言葉に少し安堵した。
絶滅寸前の幻の魚なんていてはいけないのだ。
釣人は続けて面白い話をしてくれた。
イトウを釣るのは難しいことではなく、むしろ簡単だという。
まあ確かに聡明な顔つきでないのは一目瞭然だし、
その証拠にあらゆる生き物を捕食する習性がある。
まるでイトウ蔑視だが個人の感想だ。
ゆえに最盛期にもっとも興奮する狙い方で
イトウ釣りを楽しんでいるらしく、釣人特有の法螺話ではないかと
訝しんだのが見て取れたのか、
スマホに入っている証拠画像を見せてくれた。
スレた僕を驚かせる画像の数々に、
これは刺激が強すぎてネットで公開できないねと言うと、
そうだと笑った。
これらのイト・ウを承認欲求による一時の気の迷いで
SNSに投稿しようものなら、
程度の低い釣人は釣果を妬み、
厚顔無恥な釣人はポイント目的にすり寄ってくるに違いない。
しかしこんなに長いイトウを見たことも聞いたこともなく、
ちょっと次元が違う大きさだ。
イトウがここまで成長できる自然環境が整っていることは素晴らしく、
日本にこのような秘境が残っていたことに嬉しさを感じた。
どおりでさきほど僕が持ってきたランディングネットを見て、
これでは取込めないと笑ったことにも納得がいった。
巨大イトウを取り込むなら、
人間がすっぽり収まる特大ランディングネットが必要なわけだ。
しかもイトウが大きいだけでなく、
全てのイトウがあまりに格好良いのだ。
その謎はすぐに解け、一般的に目にするイトウより体高があることを伝えると、
「そうだろ」と言い、この地域特有だと言った。
そして釣人が集まる有名河川のイトウに触れ、
「あんなのはドジョウだ」と鼻で笑った。
炎上必至の発言だが、個人の感想なので批判は受付けない。
それにしても画像に写るルアー達よ、
いいわこれ、わかってるねーと思わず声が出て、
これで釣るのはエキサイティングだし、
古い釣人なのがバレるでと笑った。
すると、このルアーの良さがわかるかと釣人は喜び、
そりゃそうでしょと僕も笑う。
すると得意げに、ある月のこの時間帯にこのルアーをこうして使うと、
こんなサイズのイトウが水柱を・・・・・・!うわあ凄い、たまらん。
めっちゃわかる、本湖の琵琶湖大鯰もそれなんよ。
でもこのポイントだけは絶対教えられねえというから、
教えんでいいよと答えた。
釣人は僕のローディーラー・アウトレイジャスや、
ブラックシープ250にヘッドハンターSRV、
リーダーにFGノットにルアーなどを確認した後、
このタックルだったら大きいイト・ウも獲れると言い、
イトウを狙う本命河川はどこなのかと、
挑発的な質問をぶつけてきた。
「あるで」
車で信号待ちをしていると窓をノックされ、
密売人が声を掛けてくる。
同じく信号待ちで窓をノックして
「ヤクルトいかがですか」と声を掛けてくるヤクルトおばさん。
もっと凄いのはマラソン大会のランナーと並走して
「ヤクルトいかがですか」と追いかけてくるヤクルトおばさん。
これらは決して大阪名物ではなく、
全国でもポピュラーな声掛けあるあるだと思うが、
ここ北海道で声を掛けてきた同年代と思しき男性の場合はこうだった。
「水は落ち着いていましたか」
まったく笑いのネタになりそうな言葉でもなく、
胸元に峡谷がのぞく女性でもない非常につまらない展開だが、
魚釣りができるか確認するための質問だったため、
いましがた釣りが成立したことを伝えた。
この一言二言のラリーで釣人はイントネーションの違いを
見抜いたらしく、車のナンバーを見て
「札幌ナンバー!?また遠い所から」と感心していたが、
おもいっきり関西弁やしとツッコミそうになった。
恐る恐る遠路はるばるやってきたことを伝えると、
遠方からやってきた僕を歓迎してくれた。
このご時世、新型コロナを警戒されてもおかしくないのに、
申し訳ない気持ちであるのとワクチン接種をしていることを伝え、
僕は胸を撫で下ろした。
釣人は、なぜこんな所まで魚釣りをしにきたのか尋ねるので、
簡潔に答えを述べると驚き、それは宿命だなと笑った。
そんな幼い頃からイトウに憧れていたならぜひ釣ってほしいと言ったが、
イトウは自分で辿り着きたいので、
くれぐれもポイントの教示はご遠慮願う旨を強調した。
それにしても違和感がある。
僕は釣人が発するイトウに違和感があり、
どうにも会話が頭に入ってこない。
イトウの発音はイトウだと思って生きてきたし、
発音が命のアナウンサーもイトウと発音する。
なのにこの釣人はイトウをイト・ウと発音する。
近い発音はカワウだが、もっとウを上げて発音する。
こ、これが本場の発音なのだろうか・・・・・・、
郷に入ればなんとやらだが、ウと言った途端に
失笑しそうで真似ることができやしない。
釣人は僕が憧れるイトウが泳ぐ川の畔に生まれ、
魚釣りを覚えたのもお互い幼少期だったこともあり、
釣り談義は同じ領域で展開する。
僕は最も気になっていた質問をした。
イトウは幻なのかと。
すると釣人は決して幻ではないと言い、その言葉に少し安堵した。
絶滅寸前の幻の魚なんていてはいけないのだ。
釣人は続けて面白い話をしてくれた。
イトウを釣るのは難しいことではなく、むしろ簡単だという。
まあ確かに聡明な顔つきでないのは一目瞭然だし、
その証拠にあらゆる生き物を捕食する習性がある。
まるでイトウ蔑視だが個人の感想だ。
ゆえに最盛期にもっとも興奮する狙い方で
イトウ釣りを楽しんでいるらしく、釣人特有の法螺話ではないかと
訝しんだのが見て取れたのか、
スマホに入っている証拠画像を見せてくれた。
スレた僕を驚かせる画像の数々に、
これは刺激が強すぎてネットで公開できないねと言うと、
そうだと笑った。
これらのイト・ウを承認欲求による一時の気の迷いで
SNSに投稿しようものなら、
程度の低い釣人は釣果を妬み、
厚顔無恥な釣人はポイント目的にすり寄ってくるに違いない。
しかしこんなに長いイトウを見たことも聞いたこともなく、
ちょっと次元が違う大きさだ。
イトウがここまで成長できる自然環境が整っていることは素晴らしく、
日本にこのような秘境が残っていたことに嬉しさを感じた。
どおりでさきほど僕が持ってきたランディングネットを見て、
これでは取込めないと笑ったことにも納得がいった。
巨大イトウを取り込むなら、
人間がすっぽり収まる特大ランディングネットが必要なわけだ。
しかもイトウが大きいだけでなく、
全てのイトウがあまりに格好良いのだ。
その謎はすぐに解け、一般的に目にするイトウより体高があることを伝えると、
「そうだろ」と言い、この地域特有だと言った。
そして釣人が集まる有名河川のイトウに触れ、
「あんなのはドジョウだ」と鼻で笑った。
炎上必至の発言だが、個人の感想なので批判は受付けない。
それにしても画像に写るルアー達よ、
いいわこれ、わかってるねーと思わず声が出て、
これで釣るのはエキサイティングだし、
古い釣人なのがバレるでと笑った。
すると、このルアーの良さがわかるかと釣人は喜び、
そりゃそうでしょと僕も笑う。
すると得意げに、ある月のこの時間帯にこのルアーをこうして使うと、
こんなサイズのイトウが水柱を・・・・・・!うわあ凄い、たまらん。
めっちゃわかる、本湖の琵琶湖大鯰もそれなんよ。
でもこのポイントだけは絶対教えられねえというから、
教えんでいいよと答えた。
釣人は僕のローディーラー・アウトレイジャスや、
ブラックシープ250にヘッドハンターSRV、
リーダーにFGノットにルアーなどを確認した後、
このタックルだったら大きいイト・ウも獲れると言い、
イトウを狙う本命河川はどこなのかと、
挑発的な質問をぶつけてきた。
2024年03月10日
イトウは心に宿る37
流れの中央付近も泥濘だが深く沈むことはなく、
水深は平均して膝下ほどの浅い河川。
川幅は広いところで約七メートルで、
水温は冷たくイワナ属の適水温のようだが、
湿原河川といえばサケ科の宝庫である。
本当にこのような泥底で生活できるのだろうか疑問に感じたが、
どこかに礫底があるのかもしれない。
当初流れは緩やかに思えたが、
非常に押しが強く水の豊さを感じられる。
岸から覆いかぶさる草に、至る所に倒木や沈木が散在し、
S時ヘアピン・カーブが連続する湿原河川の
本領発揮といった川相。
とてもイワナ釣りとは思えない初めてのシチュエーションだが、
初めての場所で初魚を釣り上げる自分に課した実力テストだ。
水の流れを読んでアップストリームでミノーを躍らせ
エゾイワナを誘う。
ミノーの後ろに魚影が追尾していないか注視するが、
なかなか姿を現してくれない。
岩や石に流れがぶつかる水流の変化がここにはなく、
川底が単調で魚が定位する場所がいまいち把握できず、
考えられる全ての場所にミノーを通すも生命感はない。
北海道の魚はめっちゃ簡単やと思っていたのに・・・・・・。
水の色は濁りが少なく透明度が高いと言えるが、
両岸の樹木が川の中央まで覆いかぶさるアーケードとなり、
木漏れ日が森の緑を川面に落とし、辺り一面が緑色に染まる。
このような神秘的な場所で魚釣りをしたことがなくうっとりし、
魚は釣れないが北海道の湿原河川に立っている事実だけで
満たされてしまう。
しかしヒグマといつ遭遇してもおかしくないことを思い出せば
背筋が寒くなる。
さらに上流へ向かうが高低差を感じられない川のため、
流れに逆らって進むという表現になるが、
どこも似たような場所の連続で魚の生命感がない。
次第に近畿圏の渓流のように、根こそぎ釣っては
クーラーボックスにぶち込んで持って帰る輩が
この川にもいるのではないかと訝しみつつさらに遡る。
実釣開始から小一時間が経過しているはずなので、
一度マップで自分の位置を確認してみると、
なんと全然進んでいない。川が蛇行しているので、
直線距離ではたいしたことがない。
さらに進むべきか退散か、これも自分の判断だ。
森の奥を見つめると不思議と釣れるような気にさせる。
鬼が出るか蛇が出るか、僕の本能は前へ進めと囁いた。
狭かった川幅が広くなり開けた瀬に出てきた。
こういった場所はカワムツにオイカワ、ウグイにタカハヤ、
アブラハヤが好きそうな流れだ。
陸生植物が覆いかぶさる岸際に流れの変化ができており、
きっと流木が沈んでいるのだろう、
そこへアップクロスでミノーを通すと二尾の黒い影が追尾してきた。
この時の高揚感といったらなく、早く魚の正体が知りたい。
フックに触れなかったのでまだ喰ってくるはず。
魚の大きさを考慮してミノーのサイズを一回り
小さなものに交換して次のキャスト。
アップクロスで投げたミノーが流れに押されてターンをしていると、
手応えを感じた。
釣友が作ってくださった竹ランディングネットを水に浸けて濡らし、
ちいさなちいさなエゾイワナを枠の中へ誘った。
エゾイワナは正式な名称ではなく標準和名アメマス。
降海する前のアメマスである通称エゾイワナに会いたかったのだ。
イトウの養殖魚は珍しくないけれど、
エゾイワナはここへ来なければお目に掛かれない。
凄い、素晴らしい。
ニッコウイワナ・ヤマトイワナ・ゴギを釣ってきたけれど、
そのどれも雰囲気が違い、エゾイワナも僕の目には個性的に映る。
それは例えるならブリとヒラマサ、
カムルチーとタイワンドジョウを瞬時に見分けられるように。
エゾイワナを水から一度も上げることなく撮影をし、
流れに帰って行く姿を見届けてから周囲の風景も撮影した。
初めての北海道で出会った魚が生息していた場所を、
今後何度も眺めてはうっとりできることだろう。
さあこの調子でどんどん釣ってやるなんて気持ちは湧いてこず、
何尾釣っただの最大長寸だのには興味なく、
必要以上に魚を傷付けることをしたくない。
今回の釣行目的はエゾイワナに出会うことであり、
満足したので踵を返すことにした。
赤いリボンを回収し、車に戻るとお昼前。
日の出から七時間掛かった初魚、いや違う、
今日は出発してから二日目だ。実に感慨深い初魚であり、
一生忘れることはないだろう。
車のリアゲートを開放してラゲッジルームに腰を掛け、
昨夜セコマで購入したパンを頬張り、
先ほどの出来事を反芻して悦に入ると、
黒の四輪駆動車が停車してひとりの男性が近寄ってきた。
水深は平均して膝下ほどの浅い河川。
川幅は広いところで約七メートルで、
水温は冷たくイワナ属の適水温のようだが、
湿原河川といえばサケ科の宝庫である。
本当にこのような泥底で生活できるのだろうか疑問に感じたが、
どこかに礫底があるのかもしれない。
当初流れは緩やかに思えたが、
非常に押しが強く水の豊さを感じられる。
岸から覆いかぶさる草に、至る所に倒木や沈木が散在し、
S時ヘアピン・カーブが連続する湿原河川の
本領発揮といった川相。
とてもイワナ釣りとは思えない初めてのシチュエーションだが、
初めての場所で初魚を釣り上げる自分に課した実力テストだ。
水の流れを読んでアップストリームでミノーを躍らせ
エゾイワナを誘う。
ミノーの後ろに魚影が追尾していないか注視するが、
なかなか姿を現してくれない。
岩や石に流れがぶつかる水流の変化がここにはなく、
川底が単調で魚が定位する場所がいまいち把握できず、
考えられる全ての場所にミノーを通すも生命感はない。
北海道の魚はめっちゃ簡単やと思っていたのに・・・・・・。
水の色は濁りが少なく透明度が高いと言えるが、
両岸の樹木が川の中央まで覆いかぶさるアーケードとなり、
木漏れ日が森の緑を川面に落とし、辺り一面が緑色に染まる。
このような神秘的な場所で魚釣りをしたことがなくうっとりし、
魚は釣れないが北海道の湿原河川に立っている事実だけで
満たされてしまう。
しかしヒグマといつ遭遇してもおかしくないことを思い出せば
背筋が寒くなる。
さらに上流へ向かうが高低差を感じられない川のため、
流れに逆らって進むという表現になるが、
どこも似たような場所の連続で魚の生命感がない。
次第に近畿圏の渓流のように、根こそぎ釣っては
クーラーボックスにぶち込んで持って帰る輩が
この川にもいるのではないかと訝しみつつさらに遡る。
実釣開始から小一時間が経過しているはずなので、
一度マップで自分の位置を確認してみると、
なんと全然進んでいない。川が蛇行しているので、
直線距離ではたいしたことがない。
さらに進むべきか退散か、これも自分の判断だ。
森の奥を見つめると不思議と釣れるような気にさせる。
鬼が出るか蛇が出るか、僕の本能は前へ進めと囁いた。
狭かった川幅が広くなり開けた瀬に出てきた。
こういった場所はカワムツにオイカワ、ウグイにタカハヤ、
アブラハヤが好きそうな流れだ。
陸生植物が覆いかぶさる岸際に流れの変化ができており、
きっと流木が沈んでいるのだろう、
そこへアップクロスでミノーを通すと二尾の黒い影が追尾してきた。
この時の高揚感といったらなく、早く魚の正体が知りたい。
フックに触れなかったのでまだ喰ってくるはず。
魚の大きさを考慮してミノーのサイズを一回り
小さなものに交換して次のキャスト。
アップクロスで投げたミノーが流れに押されてターンをしていると、
手応えを感じた。
釣友が作ってくださった竹ランディングネットを水に浸けて濡らし、
ちいさなちいさなエゾイワナを枠の中へ誘った。
エゾイワナは正式な名称ではなく標準和名アメマス。
降海する前のアメマスである通称エゾイワナに会いたかったのだ。
イトウの養殖魚は珍しくないけれど、
エゾイワナはここへ来なければお目に掛かれない。
凄い、素晴らしい。
ニッコウイワナ・ヤマトイワナ・ゴギを釣ってきたけれど、
そのどれも雰囲気が違い、エゾイワナも僕の目には個性的に映る。
それは例えるならブリとヒラマサ、
カムルチーとタイワンドジョウを瞬時に見分けられるように。
エゾイワナを水から一度も上げることなく撮影をし、
流れに帰って行く姿を見届けてから周囲の風景も撮影した。
初めての北海道で出会った魚が生息していた場所を、
今後何度も眺めてはうっとりできることだろう。
さあこの調子でどんどん釣ってやるなんて気持ちは湧いてこず、
何尾釣っただの最大長寸だのには興味なく、
必要以上に魚を傷付けることをしたくない。
今回の釣行目的はエゾイワナに出会うことであり、
満足したので踵を返すことにした。
赤いリボンを回収し、車に戻るとお昼前。
日の出から七時間掛かった初魚、いや違う、
今日は出発してから二日目だ。実に感慨深い初魚であり、
一生忘れることはないだろう。
車のリアゲートを開放してラゲッジルームに腰を掛け、
昨夜セコマで購入したパンを頬張り、
先ほどの出来事を反芻して悦に入ると、
黒の四輪駆動車が停車してひとりの男性が近寄ってきた。
2024年03月09日
イトウは心に宿る36
姫尻川水系マタシメリ川に見切りをつけ、次の一手を考える。
水嵩が増しているなら上流部へ向かうのが正解だと判断するが、
マタシメリの上流は期待できそうにないので、
姫尻川水系の上流部で繋がるチチハズミ川へ向かう。
チチハズミは数ヵ所の有望場所があり、
ここはイトウではなくエゾイワナ(アメマス)の生息が期待できそうだ。
次なる場所のGPS座標をタップして音声案内に従い移動開始。
「まったくいまどきの釣人は地図も使えんのか」と、
昔の釣師に白眼視されそうだ。
音声案内がいきなり国道を外れて牧場地帯の道を指示し、
広大な牧場に挟まれた道を進んでいると、
かなり遠くに白くて巨大な鳥とわかる二羽の姿を確認。
出た!タンチョウだ。
ぜひ野生のタンチョウを撮影したいと思っていたが、
有名なタンチョウ生息地に行かずして出会えるとは幸運。
この道を案内した奴ナイス。
車を路肩に寄せて急いで超望遠レンズに交換する手が
うまく動かない。おまけにカメラ設定まで狂っており、
ファインダーを覗いてシャッターボタンを押すと動画撮影が始まった。
車から降りず窓を開けて狙うが、
相手は警戒しているのかあまり近寄らせてくれない。
二羽と思っていたが若鳥が後ろに隠れているのが見え、もう最高。
それにしても親鳥はでかい。
淡路島と東播でコウノトリを撮影したが、
タンチョウはさらに大きさに勢いがあるように思えた。
ひとしきり撮影し、予想外の出来事に大満足したが、
実の所この一帯ではタンチョウが珍しくない事を知る由もなかった。
チチハズミ川の中流部に到着し、
川を眺めると流量は落ち着いているらしく、
酷い濁りもないため魚釣りは可能のようだ。
なにはともあれ移動の判断が正解だと思えた。
入川時の撮影、位置情報等々の儀式を終えて、
ここでもタックルはミスディミーナーSTのままいざ入川。
川岸は釣人が歩いた痕跡があり、
定期的に人の出入りがあるようだが、
その跡からして極一部の人間であろうことがうかがえた。
岸から投げることができず、
水深が浅いのでウェーディングで釣り進めることにしたが、
一歩川に踏み入れた瞬間、違和感が襲う。
川底が泥である。岸際は足が吸い込まれるように沈み、
慎重に踏み出した自分を褒めた。
これはどうやら湿原河川の一歩目は気をつけろと
僕の潜在意識に刷り込まれていたらしく、
その理由はこれだ。
『文豪たちの釣旅「佐々木栄松 カムイの輝く光を浴びて」』
大岡玲著
P156「・・・何ほどのこともなかろう、と内心高をくくり、というか、
心の準備をほとんどせずにうかうかと湿原の川辺に入りこんだ私を
待っていたのが、強烈な泥の吸引力だった・・・・・・
その途端、私の体重は思いがけないスピードで
私を泥の内部へと・・・・・・マンボNO.5が鳴り響き・・・」
大岡玲氏が挑戦したイトウ釣りでは、
二ページに渡って声を出して笑ったくだりがあり、
(ご本人様は笑いごとではなかったはずだ・・・・・・)
本を開こうとすればP156が勝手に開くほどお気に入りのページだ。
それにしても大岡玲氏の「強烈な泥の吸引力」
「私を泥の内部へと」と言った表現力の強さ豊かさ!
やっぱりもっとも好きな作家である。
https://amzn.to/4a6ZPdx
水嵩が増しているなら上流部へ向かうのが正解だと判断するが、
マタシメリの上流は期待できそうにないので、
姫尻川水系の上流部で繋がるチチハズミ川へ向かう。
チチハズミは数ヵ所の有望場所があり、
ここはイトウではなくエゾイワナ(アメマス)の生息が期待できそうだ。
次なる場所のGPS座標をタップして音声案内に従い移動開始。
「まったくいまどきの釣人は地図も使えんのか」と、
昔の釣師に白眼視されそうだ。
音声案内がいきなり国道を外れて牧場地帯の道を指示し、
広大な牧場に挟まれた道を進んでいると、
かなり遠くに白くて巨大な鳥とわかる二羽の姿を確認。
出た!タンチョウだ。
ぜひ野生のタンチョウを撮影したいと思っていたが、
有名なタンチョウ生息地に行かずして出会えるとは幸運。
この道を案内した奴ナイス。
車を路肩に寄せて急いで超望遠レンズに交換する手が
うまく動かない。おまけにカメラ設定まで狂っており、
ファインダーを覗いてシャッターボタンを押すと動画撮影が始まった。
車から降りず窓を開けて狙うが、
相手は警戒しているのかあまり近寄らせてくれない。
二羽と思っていたが若鳥が後ろに隠れているのが見え、もう最高。
それにしても親鳥はでかい。
淡路島と東播でコウノトリを撮影したが、
タンチョウはさらに大きさに勢いがあるように思えた。
ひとしきり撮影し、予想外の出来事に大満足したが、
実の所この一帯ではタンチョウが珍しくない事を知る由もなかった。
チチハズミ川の中流部に到着し、
川を眺めると流量は落ち着いているらしく、
酷い濁りもないため魚釣りは可能のようだ。
なにはともあれ移動の判断が正解だと思えた。
入川時の撮影、位置情報等々の儀式を終えて、
ここでもタックルはミスディミーナーSTのままいざ入川。
川岸は釣人が歩いた痕跡があり、
定期的に人の出入りがあるようだが、
その跡からして極一部の人間であろうことがうかがえた。
岸から投げることができず、
水深が浅いのでウェーディングで釣り進めることにしたが、
一歩川に踏み入れた瞬間、違和感が襲う。
川底が泥である。岸際は足が吸い込まれるように沈み、
慎重に踏み出した自分を褒めた。
これはどうやら湿原河川の一歩目は気をつけろと
僕の潜在意識に刷り込まれていたらしく、
その理由はこれだ。
『文豪たちの釣旅「佐々木栄松 カムイの輝く光を浴びて」』
大岡玲著
P156「・・・何ほどのこともなかろう、と内心高をくくり、というか、
心の準備をほとんどせずにうかうかと湿原の川辺に入りこんだ私を
待っていたのが、強烈な泥の吸引力だった・・・・・・
その途端、私の体重は思いがけないスピードで
私を泥の内部へと・・・・・・マンボNO.5が鳴り響き・・・」
大岡玲氏が挑戦したイトウ釣りでは、
二ページに渡って声を出して笑ったくだりがあり、
(ご本人様は笑いごとではなかったはずだ・・・・・・)
本を開こうとすればP156が勝手に開くほどお気に入りのページだ。
それにしても大岡玲氏の「強烈な泥の吸引力」
「私を泥の内部へと」と言った表現力の強さ豊かさ!
やっぱりもっとも好きな作家である。
https://amzn.to/4a6ZPdx
2024年03月08日
イトウは心に宿る35
北海道の夜明けは早い。
一日の始まりかつ一日の出来事で最難関である起床を、
概ちゃんの力を借りて目覚めることができた。
旅の途中であろうと放っておくと昼まで寝ている僕は、
朝の起床が人生でもっとも辛い。
時間を確認すると4:30、その文字を見て気絶しそうになる。
概ちゃんはヒグマが待つ湿原に行きたくないし、
僕も連れて行きたくないのでお留守番してもらい、
「本当に放って行くとか信じられへん」という言葉に
申し訳ない気持ちでいっぱいだと伝えれば、
「口元が緩んで隠しきれてない!」という言葉に
後ろ髪を引かれつつ、僕は手を振り初舞台へと向かった。
発車前に、事前にメモしていたGPS座標を眺めた。
初日に走った実感として北海道は想像以上に広大で、
ベース地から遠くの場所は時間の浪費が激しいことが予想され、
その川がよろしくなければ憂き目にあうのは明白だった。
よってできるだけ近場から探釣するのが望ましく、
まずは何を釣りたいか率直な気持ちを自分に問うてみた。
イトウは最後でいい。
その気持ちは原産地へ来ても揺らぐことはなく、
北海道のみ生息する天然魚である、あの魚とあの魚にまず会いたい。
実は飛行機の中や布団の中でもこの二種を決めあぐね、
ここで天秤に掛けてみると、ベース地からすぐ近くに生息する
あの魚、エゾイワナに気持ちが傾いた。もう一種はあとのお楽しみだ。
そうと決まればシフトレバーをドライブ・レンジに放り込み、
ゆっくりステアリングを右に切って道路に出た。
14項で記述した通り広大な流域面積を抱える北海道は、
一級河川13水系1129河川と、
二級河川230水系467河川があり、
長さは270kmや150km級が大蛇の如く横たわる。
さらには植物の要塞に牙を剥く守護神が闊歩しているため、
大胆にも河川名を記述する。
気持ちが負けて検索して行くも良し、
僕と同じ領域に生きる釣人なら他力を嫌い自力探釣するだろう。
これから向かうは、その名も麗しき姫尻川水系の支流マタシメリ川。
駐車位置は調べていた通り問題なかったが、
ここ以外に駐車スペースは見当たらない。
ゆえに狙いたい場所と必ずしも一致しなければ、
歩いて水辺に出られるのか、
はたまた水辺に出られても釣りができるのか、
なかなか実釣とならない。
狙いは小形のエゾイワナなので、
ロッドはローディーラー・シリーズで
もっともアンダーパワーのミスディミーナーST。
とはいえそこそこのアメマスが掛かっても耐えてくれるだろう。
この日まで部屋の壁に飾っていたミスディミーナーSTが、
待望の初おろしである。
装備もろもろ準備万端整った。
まずは概ちゃんに用意してもらった
ひとヒロの赤いリボンを湿原の入り口に結び、
入川する場所を撮影し、画像と位置とこれから開始することを
概ちゃんに送信。
それから湿原を抜けて川に出たところに、もう一本の
赤いリボンを木にくくりつけ垂らす予定だ。
これで迷子になることはないだろうし、
緊急時は救助されやすくなるはずだ。
湿原を抜けている時に嫌な音が聞こえていたが、
目の前に川が現れると深く嘆息した。
二日前の台風はここを直撃こそしなかったが、
余波で数日間に渡って大雨を降らせ大増水だ。
勝手知ったる川であれば水位とライブカメラで確認し、
過去のデータと照らし合わせて決行か断念を判断するが、
現実を受け入れるしかない。
平常時の水位を見たことがなくても、
遥かに増水しているのは地形を見れば理解できるが、
湿原河川ゆえに水の色は通常なのか、
酷く濁っているか判断しかねる。
いずれにせよこれだけ流量が多いと魚が定位するところがないため
投げるところがない。
投げる気力が湧かないが、通過儀礼で始球式的に投げてみた。
ググンと強い魚信があり、やっぱり北海道の川は一味違う!
などという甘美な現実にありつけるはずがなかった。
もうひとつの厳しい現実は、立ち位置から上にも下にも
移動するのが困難であること。これも予想通り。
ウェーディングは危険。なんとか岸沿いを
行ったり来たりできなくはないがその距離は短く、
そもそもこの辺りに魚が潜んでいそうにないため
徒労に終わるだろう。
このような時は速やかに勇気ある撤退。
小手調べでエゾイワナを選んだくせに、これが現実。
これが未知なる湿原河川。
前途多難な北海道釣行が始まった。
一日の始まりかつ一日の出来事で最難関である起床を、
概ちゃんの力を借りて目覚めることができた。
旅の途中であろうと放っておくと昼まで寝ている僕は、
朝の起床が人生でもっとも辛い。
時間を確認すると4:30、その文字を見て気絶しそうになる。
概ちゃんはヒグマが待つ湿原に行きたくないし、
僕も連れて行きたくないのでお留守番してもらい、
「本当に放って行くとか信じられへん」という言葉に
申し訳ない気持ちでいっぱいだと伝えれば、
「口元が緩んで隠しきれてない!」という言葉に
後ろ髪を引かれつつ、僕は手を振り初舞台へと向かった。
発車前に、事前にメモしていたGPS座標を眺めた。
初日に走った実感として北海道は想像以上に広大で、
ベース地から遠くの場所は時間の浪費が激しいことが予想され、
その川がよろしくなければ憂き目にあうのは明白だった。
よってできるだけ近場から探釣するのが望ましく、
まずは何を釣りたいか率直な気持ちを自分に問うてみた。
イトウは最後でいい。
その気持ちは原産地へ来ても揺らぐことはなく、
北海道のみ生息する天然魚である、あの魚とあの魚にまず会いたい。
実は飛行機の中や布団の中でもこの二種を決めあぐね、
ここで天秤に掛けてみると、ベース地からすぐ近くに生息する
あの魚、エゾイワナに気持ちが傾いた。もう一種はあとのお楽しみだ。
そうと決まればシフトレバーをドライブ・レンジに放り込み、
ゆっくりステアリングを右に切って道路に出た。
14項で記述した通り広大な流域面積を抱える北海道は、
一級河川13水系1129河川と、
二級河川230水系467河川があり、
長さは270kmや150km級が大蛇の如く横たわる。
さらには植物の要塞に牙を剥く守護神が闊歩しているため、
大胆にも河川名を記述する。
気持ちが負けて検索して行くも良し、
僕と同じ領域に生きる釣人なら他力を嫌い自力探釣するだろう。
これから向かうは、その名も麗しき姫尻川水系の支流マタシメリ川。
駐車位置は調べていた通り問題なかったが、
ここ以外に駐車スペースは見当たらない。
ゆえに狙いたい場所と必ずしも一致しなければ、
歩いて水辺に出られるのか、
はたまた水辺に出られても釣りができるのか、
なかなか実釣とならない。
狙いは小形のエゾイワナなので、
ロッドはローディーラー・シリーズで
もっともアンダーパワーのミスディミーナーST。
とはいえそこそこのアメマスが掛かっても耐えてくれるだろう。
この日まで部屋の壁に飾っていたミスディミーナーSTが、
待望の初おろしである。
装備もろもろ準備万端整った。
まずは概ちゃんに用意してもらった
ひとヒロの赤いリボンを湿原の入り口に結び、
入川する場所を撮影し、画像と位置とこれから開始することを
概ちゃんに送信。
それから湿原を抜けて川に出たところに、もう一本の
赤いリボンを木にくくりつけ垂らす予定だ。
これで迷子になることはないだろうし、
緊急時は救助されやすくなるはずだ。
湿原を抜けている時に嫌な音が聞こえていたが、
目の前に川が現れると深く嘆息した。
二日前の台風はここを直撃こそしなかったが、
余波で数日間に渡って大雨を降らせ大増水だ。
勝手知ったる川であれば水位とライブカメラで確認し、
過去のデータと照らし合わせて決行か断念を判断するが、
現実を受け入れるしかない。
平常時の水位を見たことがなくても、
遥かに増水しているのは地形を見れば理解できるが、
湿原河川ゆえに水の色は通常なのか、
酷く濁っているか判断しかねる。
いずれにせよこれだけ流量が多いと魚が定位するところがないため
投げるところがない。
投げる気力が湧かないが、通過儀礼で始球式的に投げてみた。
ググンと強い魚信があり、やっぱり北海道の川は一味違う!
などという甘美な現実にありつけるはずがなかった。
もうひとつの厳しい現実は、立ち位置から上にも下にも
移動するのが困難であること。これも予想通り。
ウェーディングは危険。なんとか岸沿いを
行ったり来たりできなくはないがその距離は短く、
そもそもこの辺りに魚が潜んでいそうにないため
徒労に終わるだろう。
このような時は速やかに勇気ある撤退。
小手調べでエゾイワナを選んだくせに、これが現実。
これが未知なる湿原河川。
前途多難な北海道釣行が始まった。
2024年03月07日
イトウは心に宿る34
ホットシェフのカツ丼と沢山のお菓子をカゴに入れ、
初めて目にするリボンナポリンとやらに手が伸びた。
事前情報で知ることがなかった目新しい飲料は、
リボンナポリンと韻を踏むキャッチーな商品名と味で
僕を虜にした。
その後、宿の近くで天の川撮影をすべく外に出ると、
日中の気温17度からうんと下がって5度になり、
巨大な冷蔵庫の中に放り込まれた寒さ。
今回の旅行の目的のひとつに星景撮影があり、
星をもっとも美しく撮影できる新月の大潮を選び、
後にも先にもこれ以上ない星景写真が撮れることを願い、
ここへ来る直前にデジタル一眼レフから高感度撮影に強い
ミラーレス一眼に乗り換え、さらには18mmスタートの
超広角レンズも新調していた。
大袈裟に例えるなら『原始の夜空』の下に立てるのではと期待して。
その期待する理由ははっきりしている。
梅田や心斎橋のような不夜城なんてものがなく、
人口より牛が勝る見渡す限りの牧場と湿原。
未明から働く酪農家は二十時を過ぎれば家の灯りを消すはずで、
四方八方ほぼ光がない抜群の環境なのだ。
吐く息白く、晴天の夜空を見上げると夥しい星と天の川は
確認できたが・・・・・・これまで出会った抜群に美しい星空の
順位としては表彰台に立つことはできない。
深夜にもう一度、こっそり三脚とカメラを持って外へ出たものの、
天の川の位置が変わっていただけで、
溜息が漏れるほどの星空を観察することはできなかった。
始発のバスに乗り、電車を乗り継ぎ、シャトルバスから飛行機へ、
そして車で楽しいトークを弾ませ漸く辿り着いた北の大地。
とっておきの楽しみだった星空には落胆したが、
ホットシェフのカツ丼だけは期待通りの美味しさで僕を慰めてくれ、
移動だけで一日を費やした初日の幕が下りた。
初めて目にするリボンナポリンとやらに手が伸びた。
事前情報で知ることがなかった目新しい飲料は、
リボンナポリンと韻を踏むキャッチーな商品名と味で
僕を虜にした。
その後、宿の近くで天の川撮影をすべく外に出ると、
日中の気温17度からうんと下がって5度になり、
巨大な冷蔵庫の中に放り込まれた寒さ。
今回の旅行の目的のひとつに星景撮影があり、
星をもっとも美しく撮影できる新月の大潮を選び、
後にも先にもこれ以上ない星景写真が撮れることを願い、
ここへ来る直前にデジタル一眼レフから高感度撮影に強い
ミラーレス一眼に乗り換え、さらには18mmスタートの
超広角レンズも新調していた。
大袈裟に例えるなら『原始の夜空』の下に立てるのではと期待して。
その期待する理由ははっきりしている。
梅田や心斎橋のような不夜城なんてものがなく、
人口より牛が勝る見渡す限りの牧場と湿原。
未明から働く酪農家は二十時を過ぎれば家の灯りを消すはずで、
四方八方ほぼ光がない抜群の環境なのだ。
吐く息白く、晴天の夜空を見上げると夥しい星と天の川は
確認できたが・・・・・・これまで出会った抜群に美しい星空の
順位としては表彰台に立つことはできない。
深夜にもう一度、こっそり三脚とカメラを持って外へ出たものの、
天の川の位置が変わっていただけで、
溜息が漏れるほどの星空を観察することはできなかった。
始発のバスに乗り、電車を乗り継ぎ、シャトルバスから飛行機へ、
そして車で楽しいトークを弾ませ漸く辿り着いた北の大地。
とっておきの楽しみだった星空には落胆したが、
ホットシェフのカツ丼だけは期待通りの美味しさで僕を慰めてくれ、
移動だけで一日を費やした初日の幕が下りた。
2024年03月05日
イトウは心に宿る33
市の中心部から再出発し、一回、二回と交差点を曲がるだけで
いつ動物が飛び出してもおかしくない森の中になり、
いよいよ野生の王国らしくなってきた。
延々進むと広大な牧場が現れ、
これぞザ・北海道だと概ちゃんと喜んだのも束の間、
五分も経てば見飽きてしまう。
変化が乏しい変わらぬ景色。
道なりに進んでいるのに、
あれ、さっきこの道通ったよね?なんてボケも飛び出す。
北海道を好きになる色々な理由のひとつに、
広大な景色に惚れ、毎日この景色を眺めながら生活したくて
北海道に移住した人を知っているが、
我々には耐えられない苦痛だ。
ムッシュかまやつの
『なんにもない なんにもない まったくなんにもない♬』
が流れてこようというもの。
しかもこの道、ひっきりなしにフロントガラスに昆虫たちが衝突し、
昆虫好きを自負する僕でも嫌気がさすほどで、
どうやら体の柔らかいカゲロウやトビケラではなく、
牧場の堆肥を飛び回る昆虫だ。
そういえばGG共が乗るハーレー軍団を見かけたけれど、
フルフェイスじゃないし万歳ハンドルで
体の前面ムシだらけに違いない。
時速200km/h巡航が可能で、
リッターSSなら余裕で299km/h出せる道なのに、
制限速度が50km/hだなんて苦行でしかない。
積雪を考慮し一歩譲って60km/hでもないのかと。
野生動物の飛び出しが頻繁にあるので80km/hは無謀かつ無慈悲だけど。
道が単調である。景色が止まっている。進んでいる感じがしない。
何度でも言おう、この上なくつまらない。
そんな代り映えのない景色に、ある記憶が蘇ってきた。
そうだ、白バイ野郎ジョン&パンチだ。
こんな道路脇から緊急発進してくるんだ。
ほら、このいかにも速度取締りをしていそうな直線で
やっぱり餌食になった乗用車が停車していた。
先頭のペースカーに続き等間隔で走る後続車の全てが
小魚の群れとすれば、一匹だけ群れから外れて奇抜な行動に出ると、
群れを眺めるだけのおとなしかった捕食者が
急に興奮して襲い掛かる。
魚釣り愛好家であれば、
そのような光景を目の当たりにしたことがあるだろう。
結果、一定の速度で走行していたお利口さんの車列が、
違反車両を横目に通り過ぎる。
地獄の道はまだ続き、道の長さの分だけ北海道が嫌いになってきた。
これだけ走ってもコンビニすら見当たらないことを
概ちゃんに投げかけると、彼女も気づいていた。
そう、だってここは北海道だもの。
遥々マクドナルドまで行けばイートインからの
テイクアウトする複合技が飛び出し、
燃料代を含めればもはやバリューセットとは呼べない。
以前ニュースで見たのは、
ローソン日本最北店のオープン日には大勢が押し掛け、
からあげクンを嬉しそうに大量購入していた人達の姿。
大手コンビニ三社に徒歩で行ける環境に住んでいても、
これっぽっちもありがたみを感じられない
自分達は不幸なのかもしれない。
いったいどれくらい走ったのだろう、
ようやく宿に到着する頃にはすっかり陽が沈み、空には星が瞬いていた。
その前に食料の買出しをせねばならず、
宿から最寄りのコンビニを検索すると、
似たような距離になんと三店舗も見つかるミラクル。
どれでもいいが少しでも近いコンビニを調べると、
なななんと車で九分も掛かる。
ほふく前進で掛かる時間かと思ったよ。
これは徒歩で行ける距離ではないし、
そんなことをすればヒグマに食料を奪取されるやつだ。
ちなみに箕面はニホンザルに食料を強奪されるが、
北海道に野生のニホンザルは生息していないらしい。
コンビニとはいえここは北の地、
念の為に営業時間を調べるとやはり24h営業ではなかった。
油断していると危ないところだ、
ここは北海道なんだぞと何度も自分に言い聞かせる。
そうして向かったコンビニは、
北海道でメジャーなセイコーマート。念願のセコマだ。
事前に調べていたが、ホットシェフという店内で
調理したお弁当が人気なのだ。
店内に入ると、あ、あぁという心の声が漏れた。
女性スタッフが金髪だったのだ。
1980年代を最後にお目に掛かっていないので
郷愁に駆られたのと同時に、
金の亡者としては縁起の良さを感じられた。
いつ動物が飛び出してもおかしくない森の中になり、
いよいよ野生の王国らしくなってきた。
延々進むと広大な牧場が現れ、
これぞザ・北海道だと概ちゃんと喜んだのも束の間、
五分も経てば見飽きてしまう。
変化が乏しい変わらぬ景色。
道なりに進んでいるのに、
あれ、さっきこの道通ったよね?なんてボケも飛び出す。
北海道を好きになる色々な理由のひとつに、
広大な景色に惚れ、毎日この景色を眺めながら生活したくて
北海道に移住した人を知っているが、
我々には耐えられない苦痛だ。
ムッシュかまやつの
『なんにもない なんにもない まったくなんにもない♬』
が流れてこようというもの。
しかもこの道、ひっきりなしにフロントガラスに昆虫たちが衝突し、
昆虫好きを自負する僕でも嫌気がさすほどで、
どうやら体の柔らかいカゲロウやトビケラではなく、
牧場の堆肥を飛び回る昆虫だ。
そういえばGG共が乗るハーレー軍団を見かけたけれど、
フルフェイスじゃないし万歳ハンドルで
体の前面ムシだらけに違いない。
時速200km/h巡航が可能で、
リッターSSなら余裕で299km/h出せる道なのに、
制限速度が50km/hだなんて苦行でしかない。
積雪を考慮し一歩譲って60km/hでもないのかと。
野生動物の飛び出しが頻繁にあるので80km/hは無謀かつ無慈悲だけど。
道が単調である。景色が止まっている。進んでいる感じがしない。
何度でも言おう、この上なくつまらない。
そんな代り映えのない景色に、ある記憶が蘇ってきた。
そうだ、白バイ野郎ジョン&パンチだ。
こんな道路脇から緊急発進してくるんだ。
ほら、このいかにも速度取締りをしていそうな直線で
やっぱり餌食になった乗用車が停車していた。
先頭のペースカーに続き等間隔で走る後続車の全てが
小魚の群れとすれば、一匹だけ群れから外れて奇抜な行動に出ると、
群れを眺めるだけのおとなしかった捕食者が
急に興奮して襲い掛かる。
魚釣り愛好家であれば、
そのような光景を目の当たりにしたことがあるだろう。
結果、一定の速度で走行していたお利口さんの車列が、
違反車両を横目に通り過ぎる。
地獄の道はまだ続き、道の長さの分だけ北海道が嫌いになってきた。
これだけ走ってもコンビニすら見当たらないことを
概ちゃんに投げかけると、彼女も気づいていた。
そう、だってここは北海道だもの。
遥々マクドナルドまで行けばイートインからの
テイクアウトする複合技が飛び出し、
燃料代を含めればもはやバリューセットとは呼べない。
以前ニュースで見たのは、
ローソン日本最北店のオープン日には大勢が押し掛け、
からあげクンを嬉しそうに大量購入していた人達の姿。
大手コンビニ三社に徒歩で行ける環境に住んでいても、
これっぽっちもありがたみを感じられない
自分達は不幸なのかもしれない。
いったいどれくらい走ったのだろう、
ようやく宿に到着する頃にはすっかり陽が沈み、空には星が瞬いていた。
その前に食料の買出しをせねばならず、
宿から最寄りのコンビニを検索すると、
似たような距離になんと三店舗も見つかるミラクル。
どれでもいいが少しでも近いコンビニを調べると、
なななんと車で九分も掛かる。
ほふく前進で掛かる時間かと思ったよ。
これは徒歩で行ける距離ではないし、
そんなことをすればヒグマに食料を奪取されるやつだ。
ちなみに箕面はニホンザルに食料を強奪されるが、
北海道に野生のニホンザルは生息していないらしい。
コンビニとはいえここは北の地、
念の為に営業時間を調べるとやはり24h営業ではなかった。
油断していると危ないところだ、
ここは北海道なんだぞと何度も自分に言い聞かせる。
そうして向かったコンビニは、
北海道でメジャーなセイコーマート。念願のセコマだ。
事前に調べていたが、ホットシェフという店内で
調理したお弁当が人気なのだ。
店内に入ると、あ、あぁという心の声が漏れた。
女性スタッフが金髪だったのだ。
1980年代を最後にお目に掛かっていないので
郷愁に駆られたのと同時に、
金の亡者としては縁起の良さを感じられた。