2021年08月24日
うわマジか・・・管理釣り場が閉鎖されていました。

小学校の夏休み。
僕は間違いなくこの景色の中でルアーを投げた。
ふと思い立ち、遠い昔の景色を訪れる。
そんな時間を楽しめるようになった。
初めて魚を釣った里川。
初めて海釣りをした防波堤。
初めてルアー釣りをしたあの渓流。
初めてバス釣りをした湖etc...
僕は約四十年前にルアー釣りを覚えた。
投げ方も、ルアーの使い方も、渓流のアップストリームも、
すべて魚釣りの本で学び、答えは魚が教えてくれた。
人生初ルアー釣りの獲物はニジマス。
田舎の山間にある渓流で投げたブレットンに喰ってきた。
ヒットした直後に水面を突き抜けて跳躍した魚体。
その光景はいまだ鮮明に輝き続ける。
そんな記念すべき日からそう時間が経過していない時、
親戚からニジマスの管理釣り場の話を聞き、ときめいた。
どうしても行きたくなった僕は親に相談すると、
親の知り合いにラリーストがおり、
その方の家の真ん前がニジマスの管理釣り場だという。
ウチの実家の真ん前は釣具屋だけど、
その人は真ん前が釣場だと!?超絶うらやましい。
ある日、ラリーストの愛車ランタボに乗せてもらい、
連れて行ってもらうことになった。
車も大好きだった僕は、座り心地も乗り心地もサイテーな車に興奮。
狭く曲がりくねった山道は舗装こそしているものの、
繰り返しやってくるヘアピンカーブ。
「酔わないか?」と心配してくれるも、
僕はまったく平気だと返すと、笑っていた。
それもそのはず、公道では安全運転。
ライセンス所有者は競技以外はスイッチオフ。
エアコンもない車だけど、全開にした窓から入る
山の澄んだ風が気持ち良かった。
いつまでこんなコースが続くのかと心ときめかせ、
本当にこんな山奥に集落があるのだろうかと不思議になっていたころ、
左手に民家、右手に川が現れた。
その川こそがマス釣場だった。
道路から川を覗くとニジマスが沢山泳いでいる。
た、たまらん・・・・・・。
魚の数に対して釣客はゼロ。僕達以外にまったくいなかった。
川原におりて釣具を準備していると、
管理人らしき人物が道路から声を掛けてきた。
「今日は貸し切りだな」と。
ラリーストが料金を支払う“素振り”をしたが、
管理人は「いらないよ」と言う。
それもそのはず、このマス釣場は集落が村おこしでやっており、
その集落はほんの十数軒で、どの家も同じ苗字ばかり。
僕は夢中になってルアーを投げた。
ルアー釣りの本で、
湖のニジマスはミノーで釣っていたはずで、
どうしてもミノーで釣ってみたかった。
しかしながらそれはスズキを釣るミノーであり、
管理釣り場のニジマスには到底不向きなミノー。
もちろんなかなか釣れず、
見かねた管理人がエサ釣りを提案してきたが、
僕は頑なにルアー釣りで通した。
今度はラリーストが僕のルアーボックスを見て、
スプーンかスピナーに交換するようアドバイスをしてくれた。
ダーデブルのバッタモンみたいなスプーンを投げたり、
フックにフェザーが付いたスピナーを投げて、
なんとか数尾釣ることができた。
そのマスをどうしたとか、どうやって帰ったのかは覚えていない。
数尾釣ったところが興奮の頂点で、そこで記憶が途絶えている。
あの管理釣場はまだあるのだろうか。
もう一度あの場所に立ちたい。
2018年8月初旬。
僕は記憶の景色探索へ出掛けた。
数週間前からマップを探し回ったが、
釣場の場所はまったくわからなかった。
可能性が高そうな川を数か所マークして、あとは現地で判断するしかない。
と、そんな時だった。ダメ元で親に電話してみると、
集落の名前を教えてくれた。
な、なんだ簡単に見つかったわ・・・・・・。
マップから出される指示通りに進む。
いくつものヘアピンカーブをクリアした。
いつまでこんなのが続くのだろう。
こんな先に集落があるの?
通学・通勤・買い物はどうしてるの?
冬は雪で出られないのでは・・・・・・。
そう、全てはこんな感じだった。
ようやく集落が現れた。
ほんの小さな小さな集落。
もっと大きな川だったような気がするのに、
それは小川と呼ぶべきほどの川幅。
でも、あぁ、こんな雰囲気だったか。
集落の中を行ったり来たりして釣場を探したが見つからず、
なぜこんな所にお食事処?というお店で休憩することにした。
店主はご高齢の男性だった。
自宅の一階が店なのだけど、
それは改装もしていない普通のお宅。
おもわず、お邪魔しますと声がでた。
薄暗い大広間はまさに田舎のそれであり、
エアコンなんてなくても問題ないほど涼しい。
骨董品のような扇風機を回してくださると、
僕は大昔にタイムスリップした。
店主にこの集落へ来た理由を話した。
ラリーストのご自宅がわかれば
そこの真ん前が釣場であるため、
ラリーストの苗字を言うと
下の名前を教えてくれと店主が笑う。
この集落はみんなその苗字なんだよと。
たしか・・・・・・たしか、タクミさんだった。
そう、確かそうだった。
振絞るように伝えた。
すると店主は広間から縁側へ歩きだし、
川を挟んだ向こうの家を指差した。
え・・・・・・真向いのお宅が!?
ただ、今は違う人が住んでいるらしい。
そんなこと言われると、家と庭のレイアウトがそうだ。
あそこにランタボを停めて、道路へ降りる坂道はあそこで・・・・・・。
深い海の底にあった記憶が浮き上がる。
じゃ、この細い川が釣場?
いやいやもっと広かったよと苦笑い。
あぁこれは久しぶりに訪れた小学校が小さく狭く感じるのと同じなのか。
美味しい料理をいただき、
店主は店の外に出て見送ってくれた。
少し、一緒に川を眺めながら散歩した。
なかなかお目に掛からないほどの大きなカワムツが数尾流れに定位している。
釣場は随分前に閉鎖したとのことだった。
店主は数年前に大病を患い一命をとりとめた後、この店を始めたことを教えてくれた。
恐ろしいくらい何もない山奥だけど、静かに暮らすには最高だと微笑んだ。
大阪は猛暑。夜明け前から逃げるようにこの川へ帰ってきた。
山間の集落から見上げる空は盛夏そのものだった。
店主に、また必ず来ますと言い、僕は記憶の景色を後にした。
Posted by Миру Україні at 07:07
│ニジマス