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Posted by naturum at

2025年01月11日

イトウは心に宿る47

47

積年の願いであったオショロコマとの出会いを遂げ、
しばし海を眺めながら単調なドライブが始まった。
移動を開始してようやくスマホの電波が入り、
圏外に居た時に溜まっていた連絡が一斉に届いた。
中でも、待たせている概ちゃんには心配を掛けたようで、
ちゃんと生きていることの証明を返信した。

まだ一日が始まったばかりなのに、
概ちゃんが待つ宿泊先まで延々とステアリングを握らねばならない苦痛の距離。
何十回でも言おう、北海道の道は恐ろしく退屈で、
願わくばツーリングやドライブなどで訪れたくない。
制限速度は一般道のそれであるため、窓に映る変化に乏しい景色は動かず、
そのくせ大型野生動物の飛び出しに警戒せねばならず緊張の糸を緩められず疲れる。
道の駅だのコンビニだのドライブインで気分転換もできない近代における不便の象徴。
見えない檻への収監。
いくら本音をぶちまけても北の地は微動だにせず虚無感が漂い、
この状況をなんとか褒めようとしても考えあぐねてしまう。
僅かな希望としてはキタキツネを撮影することだが、
助手席で出番を待っている超望遠レンズを装着したカメラまで
欠伸をしているようだった。
最短距離で概ちゃんが待つ宿泊地へ向かいたいところだが、
到着予定時間が夕刻に迫りそうなことに気付いた。
いくら一週間の滞在予定であっても、
移動だけで遊びの時間が削られる事に不満を覚えた。
ここでマップを確認して現在地と周辺を眺めると、
百キロばかり先に面白げな地形が見つかったことで悪巧みが露見した。
僕の持つ羅針盤がある地点を指した。
その場所はラグーンと呼ばれ、日本でも数少ない地形。
確かラグーンなる言葉を知ったのは中学生の頃で、
アドベンチャー・ゲームブック『魔人の沼』という書籍だったと記憶する。
小説でありながら選択肢によって指定されたページに飛び、
枝分かれしながら物語を完結させる画期的な書籍だった。
内訳は魔人の沼と題する通り湿地帯を舞台にした冒険で、
その中にラグーンの文字があったはずだ。
いまの地点から日本のラグーンが百キロ先にあることを知り、
予定になかった水辺に立つことに心ときめかせ、
なにも迫りこないつまらない直線に転がり出した。
するとナビゲーション・システムが感情のない音声で、
何十キロ道なりですなんて、眠りに誘引するようなことを耳打ちしてきた。

空は相変わらず晴れることなく、信号機の色も久しくみない。
ようやく遥か遠くに湿地のようなものが見えてきたが、
果たして目的地なのか、確認しようにもなかなか近寄ってこない。
マップを確認するとどうやらラグーンらしいことは間違いなさそうだが、
距離感を掴めずにいた。
そもそもラグーンそのものが想像を超えた広さだった。
道はラグーンにぶつかるが、そこから展望できないため大きく迂回する道を
進み、全体を見渡せる場所まで移動した。
水辺を探索しようにも水辺へ出ることは困難を極め、
魚釣りができるような場所はないように思えた。
引き潮だったが、
いつかやった九州の干潟で潟スキーに乗って顔も体も泥だらけになり、
哄笑しながらムツゴロウやトビハゼを手掴みできるような雰囲気はひと欠片もなく、
初めて拝むラグーンはひたすら寂寞としていた。
期待していた風景美などなく、
自然に平等であれば人の存在など威を借る狐でしかないと思わせる景色だった。
日中を思わせない空の暗さが記憶の底に沈んでいた魔人の沼を引き寄せ、
カメラを起動させることなくそこに佇んだ。  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ