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Posted by naturum at

2025年02月19日

イトウは心に宿る56

 本命の流芯を後回しにして手前の白泡が立つ筋から探っていけば
数尾を手にすることができるなどと、さもしい気持ちが見え隠れしたが、
いやいや目を覚ませ、それは野暮というもの。ここは一発大物、迷わず流芯狙いだ。
一投目からアメマスが、しかも大きい個体が喰ってくるに違いないと、
この日この瞬間まで温存しておいた83mmの、誰が呼んだか(名付け親を覚えているが)
通称黒いほーというサブネームを持つミノープラグをスナップに接続した。
手元に落としていた視線を上げ、水の流れを読みながら立ち位置を数歩だけ右岸に寄せた。
あの流れに黒いほーを投げ入れ、ここで誘って、あそこで喰わせるイメージね。
慎重になるのは一投目がもっとも好機だからだ。
魚の向きと定位する位置、追わせて喰わせる位置、
一連の動きを頭の中で再生し、もう一度足元を確認してから少し前屈みに構えた。
 石を乗り越えて一段落ちた水は他の環境音を耳に届かせないほど騒々しく、
この音と並んだ石が流芯付近に定位するであろう魚との障壁になり、
僕の気配を低減してくれることで有利な立ち位置を確保できている。
これで釣れなきゃ嘘である。流れの釣りは十八番なんだ。
 ダウンクロスでプラグを流れに放り込み、
同時にラインスラックを巻き取り水流を利用してプラグを震わせる。
プラグが流れを横切りターンを終えようとした時にコッ!とロッドに生命感が伝わり、
ほら狙い通り!と片方の口角が上がったものの、
送り込んでいたロッドを胸に引き寄せることなくプラグはターンを終え、
流芯から大きく外れたところで回収。いやあ一投目で小さな魚信とはこれいかに。
大きい個体がいれば先に喰ってくるはずなのにと首を傾げ、
とうとう隠し切れない卑しい釣人心が露呈する。
 狙い通り魚は居た。きっとアメマスに違いないが二投目を投げ入れ魚種の正体を知りたい。
プラグは身を震わせながら流れに乗ると、コッ!と突かれ、
怪訝な表情のままプラグを流し、すぐさまコッ!と突かれ、
プラグを流しきるまでに二回魚信を得て、なるほどなるほど。
プラグを喰い切らない大きさのアメマスが数尾ほど定位しているのだろう。
プラグを小型のものにすれば釣れるのだろうが、このロケーションを前にそれで満足できるのか。
志を高く持つべき派と、小さくても釣れることに感謝しよう派の、
主張を二分するタカ派とハト派がせめぎ合う。

 次の一手はもっと下流を流すことにして、落ち込みになる石を跨いで瀬の始まりに立った。
その時、右手にある景色に息を呑んだ。
橋の上から気付かなかった水の流れがあり、
太い流れの脇に細い流れが捩じれあうように合流し、
そこから下は金泥色をした水が緩やかに流れている。
先ほどまで気づかなかった理由は、木が倒れその先の枝が繁茂して五メートルほど川に
覆いかぶさることでその存在を隠していた。
枝と葉は水面には届かず、低弾道ならルアーを送り込める隙間が十分にある。
午前11時半は捕食者のお食事時間ではなく、大きな魚はわざわざ流芯に入らない。
一級ポイントに泳ぐ小形のアメマスと思しき魚達は被食者に違いない。
 僕は気づいた。これまで魚釣りや野鳥撮影その他でも本能が語り掛けてくる瞬間があり、
勝手に足が止まりその場に佇む。
本命が近くにいることに気づいていない自分に気付かせようとする時間。
この金泥の流れにイトウの存在を意識の片隅で感じていた。
  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ