2017年07月02日
ツキノワグマがおったところ

八十代と思しきじーさんが、
年季が入り色あせたグレーの作業ズボンの
ポケットから徐に、しかし流れるような動作は
まるで早撃ちガンマンをスロー再生したかのように
右手にはリボルバーならぬスマホを取り出した。
リボルバーいや、スマホを出すが早いか、
説明が早いか、とにかく自慢のブツを見せてくれるらしい。
液晶画面を撫でる仕草は若者と遜色がない。
高速でスライドする画像の中に、
ゲートボール場で口説いた十コ下の
彼女の(年上の奥さんには秘密)肩に手を回した自撮り画像が
出てきそうな雰囲気もあったが、
見せてくれたのは老人会で行った
京都の慰安旅行の集合画像だった。
いや、そんなん見せてもろてなんて感想を言えば・・・・・・。
じーさん、武士(もののふ)やな。
前フリに満足感を覚えたのか、ようやく本命画像が現れた。
これは大物だ。
地面に横たわった大きなイノシシ、そしてニホンジカ。
次から次へと画像が出てくるのだけど、
じーさんいわく、ほぼ連日。釣り用語で入れ喰い。
イノシシは檻で捕らえ、ニホンジカは罠で捕るそうだ。
そのうちじーさんの軽トラのエンブレムが、
害獣駆除の報奨金により跳ね馬になるのではないだろうか。
山間に響き渡る耳をつんざくエキゾーストノート。
真っ赤なボディを水田に横付けし、
天に向かって上がったドアから
黒い長靴を履いたじーさんが降りてくる日もそう遠くない。
そんなじーさんが最後にとっておきの動画を見せてくれた。
動画の時刻は16時半。ちょうど48時間前のことになる。
真っ黒なツキノワグマが僕が立っている所から
二十メートル離れた林道を歩いている。
これには参った。じーさん動画撮影も心得ているのかと。
めっちゃスマホを使いこなしてるやんと。
カラオケ喫茶で知り合った別の
十コ下の彼女(年上の奥さんにはもちろん秘密)との
動画を撮っていても不思議はなさそうだ。
さっそくツキノワグマが歩いていた場所に僕は走った。
動画で確認した位置で痕跡を探したがそれらしきものはなかった。
林道はしんと静まり返ったままだった。
Posted by Миру Україні at 07:07
│動物