2024年03月04日
イトウは心に宿る32
街路樹の葉は暖色に染まり、
中には落葉して地面を彩るものもある。
北海道はすっかり秋なのだ。
季節の進行に驚き、一足お先の紅葉ドライブ。
おそるおそるパワーウインドウなるもののスイッチを押すと
自動で窓が下がることに感動。
秋の澄んだ空気が車内を巡り、
快適性を優先して装備されているエアコンも、
やはり自然の空気の美味しさには敵うまい。
コンプレッサーは重量増しになるだけでデメリットでしかないと
吐き捨てようものなら概ちゃんに肩を揺すられ、
「エアコンのない車なんて乗りたくないで」と言われる。
車内は普通の声量で会話ができるほど静寂なエンジンで、
サスペンションは乗り心地を重視しているのであろう
スプリング・バネレートと、ショックアブソーバーの
コンプレッションとリバウンドのセッティングが絶妙で、
ホールド性は皆無のくせに無駄に厚みのあるシートと相まって
乗り心地の良さだけは堪能できる。
移動するだけの手段ならこの上なしの乗り物であるが、
スロットルに呼応した吸気音も、耳をつんざく排気音もなく、
カムプロフィールもマイルドな吹け上がりで
まったく退屈な乗り物だ。
あの尖ったカム作動角による不安定なアイドリングが
しびれるのに、なんてことだろう信号で停車するたびに
黙り込むエンジンに戸惑ってしまう。
僕の肩を揺すりながら「アイドリング・ストップは普通やから」
「これが普通の車やねんで」と概ちゃんは言った。
この車とは一週間だけのお付き合いだが、
やはり自分で組んだエンジンでなければ愛せないと僕は寂寥を覚えた。
レンタカー店から最寄りの市場へ到着。
最寄りといえどここは広大な地北海道ゆえに
距離と時間概念が少々違うらしく、自動車で三十分も離れた場所なのに
すぐそこになるらしい。
しかも信号がほとんどなく渋滞とも無縁につき、
三十分走行すれば相当な距離を移動することになる。
概ちゃんは水辺に直行してもいいと気遣ってくれるが、
試算によると到着時間は水辺の下見すら不可能な時間帯なので、
旅行を存分に楽しむべく料理に舌鼓を打つことにする。
北海道の美味しいものといえば、北海道で食べたいものは、
北海道ならではといえば、海鮮でしょう!と概ちゃんと意気投合。
古い建物の駐車場に滑り込むと料金徴収ゲートはあるものの
稼働しておらず無料で停められた。
高知県の有名なんちゃら市場は、
数千円の買い物をしないと駐車料金をとるせこいシステムなのに、
ここはなんと親切なのだろう。
なんちゃら市場は義子の職場だったので遠慮なく言わせてもらう。
駐車場から市場の入口へ向かう途中でスマホのアラームが鳴った。
十四時四十五分だ。後場の終わり直前なので株価を確認し、
安ければ買い、高ければほくそ笑み、
値動きが小さければつまらんとスマホの画面を閉じる。
旅行中であってもたった数秒の確認で得ができる。
土地を貸している人の怠惰な儲けには敵わないけれど、
投資家も寝ている間や遊んでいる間も利益がでる。
折しもコロナ渦からの復活中で、17000円まで落ちた日経平均株価が
27000円まで上がり、この夏は乱高下していたので狙い通り
下がり切った所で買い続ければ後に左団扇。
ただのサラリーマンが独学でお小遣いを一千万円にする目標は
夢ではなく、大袈裟に言えば雪だるま方式で現実のものとなる。
当初は数千円の利益が出て喜べていたのが、
数万や十数万円の利益ではさほど表情に出ることもなく、
そのうち百万円単位を布団の中で右から左へ動かすようになる。
特技は投資、趣味は通帳を眺めること。
とはいえ現金化していないので
単に数字が大きくなっているだけなのだけど。
観光客相手の市場はコロナ渦で厳しい状況だったことだろう。
補助金で逆に潤っていたお店もあるかもしれないが・・・・・・、
旅行にきたならその地へお金を落としていきたい。
すっかりお昼時を逃したのに、
市場は観光客が多く活気があった。
初めて食べるサクラマスのお造りは悪くないが、
今後どうしても食べたくなるほどではなかったので、
釣り上げたらこれまで同様、元気なうちに水に帰そうと思った。
そんなサクラマスの上を行く美味しさはトキシラズのお造り。
トキシラズとはシロザケのことで、こういう味を絶品という。
さらに地元ではお目に掛かれないホッケのお造りだが、
これまた優勝である。
惜しむらくは本物のシシャモが見当たらなかったことだが、
それは仕方ないとして、あとはボタンエビにエンガワ、
花咲ガニ、蟹汁、イカにイクラ、
あぁお口の中が幸せになれるオンパレード。
温かいご飯も用意されており、とにかくご飯がすすむ。
さらには若い女性店員さんが炙りサケをおまけしてくださり、
その味に概ちゃんと顔を見合わせ大満足。
孤独のグルメではこれだけ沢山食べられないが、
二人のグルメはお互いのを食べられる特典がある。
チョコレートパフェとフルーツパフェを迷った時は、
それぞれ注文すればどちらも食べられる。
お腹を満たしたところで市場をぐるりとすれば、
お土産屋があった。
ここ北海道はヒグマがサケを銜えた木彫りの原産地であり、
日本中の実家に鎮座する三大置き物のひとつである。
残り二つは信楽の狸、最後はこけし。
自分が気に入り購入するのは問題ないが、
我々世代に対してのお土産であればもはやテロ行為。
そんな団塊世代あるあるを笑いながら眺めていると、
ご時世に対応した超可愛いぬいぐるみがあった。
お恥ずかしながら初の北海道旅行なので
いつから定番なのか知らないけれど、
売場面積の多くをシマエナガが占領している。
エナガはお馴染みの野鳥だけど、
シマエナガのデフォルメはなんて可愛いのだろう。
この可愛さに参ってしまい、
僕は持って帰られる最大サイズのシマエナガを連れて帰ることにし、
概ちゃんもなにやら色々と選んでいた。
このご時世に支払いは現金のみだったがお金を落とすに丁度良く、
ご高齢のおねーさん店主にお釣りは辞退することを伝えて帰ろうとしたら、
それはダメだと追いかけてきた。
おねーさんがちょっと待っててと言い残し、
一度戻って僕に手渡してくれたお菓子にはフィナンシェと書かれていた。
あら、これは縁起がいい。フィナンシェはフランス語で金融家。
おねーさんの三時のおやつをいただいて申し訳なかったが、
この味もまた美味しい思い出のひとつとなった。
中には落葉して地面を彩るものもある。
北海道はすっかり秋なのだ。
季節の進行に驚き、一足お先の紅葉ドライブ。
おそるおそるパワーウインドウなるもののスイッチを押すと
自動で窓が下がることに感動。
秋の澄んだ空気が車内を巡り、
快適性を優先して装備されているエアコンも、
やはり自然の空気の美味しさには敵うまい。
コンプレッサーは重量増しになるだけでデメリットでしかないと
吐き捨てようものなら概ちゃんに肩を揺すられ、
「エアコンのない車なんて乗りたくないで」と言われる。
車内は普通の声量で会話ができるほど静寂なエンジンで、
サスペンションは乗り心地を重視しているのであろう
スプリング・バネレートと、ショックアブソーバーの
コンプレッションとリバウンドのセッティングが絶妙で、
ホールド性は皆無のくせに無駄に厚みのあるシートと相まって
乗り心地の良さだけは堪能できる。
移動するだけの手段ならこの上なしの乗り物であるが、
スロットルに呼応した吸気音も、耳をつんざく排気音もなく、
カムプロフィールもマイルドな吹け上がりで
まったく退屈な乗り物だ。
あの尖ったカム作動角による不安定なアイドリングが
しびれるのに、なんてことだろう信号で停車するたびに
黙り込むエンジンに戸惑ってしまう。
僕の肩を揺すりながら「アイドリング・ストップは普通やから」
「これが普通の車やねんで」と概ちゃんは言った。
この車とは一週間だけのお付き合いだが、
やはり自分で組んだエンジンでなければ愛せないと僕は寂寥を覚えた。
レンタカー店から最寄りの市場へ到着。
最寄りといえどここは広大な地北海道ゆえに
距離と時間概念が少々違うらしく、自動車で三十分も離れた場所なのに
すぐそこになるらしい。
しかも信号がほとんどなく渋滞とも無縁につき、
三十分走行すれば相当な距離を移動することになる。
概ちゃんは水辺に直行してもいいと気遣ってくれるが、
試算によると到着時間は水辺の下見すら不可能な時間帯なので、
旅行を存分に楽しむべく料理に舌鼓を打つことにする。
北海道の美味しいものといえば、北海道で食べたいものは、
北海道ならではといえば、海鮮でしょう!と概ちゃんと意気投合。
古い建物の駐車場に滑り込むと料金徴収ゲートはあるものの
稼働しておらず無料で停められた。
高知県の有名なんちゃら市場は、
数千円の買い物をしないと駐車料金をとるせこいシステムなのに、
ここはなんと親切なのだろう。
なんちゃら市場は義子の職場だったので遠慮なく言わせてもらう。
駐車場から市場の入口へ向かう途中でスマホのアラームが鳴った。
十四時四十五分だ。後場の終わり直前なので株価を確認し、
安ければ買い、高ければほくそ笑み、
値動きが小さければつまらんとスマホの画面を閉じる。
旅行中であってもたった数秒の確認で得ができる。
土地を貸している人の怠惰な儲けには敵わないけれど、
投資家も寝ている間や遊んでいる間も利益がでる。
折しもコロナ渦からの復活中で、17000円まで落ちた日経平均株価が
27000円まで上がり、この夏は乱高下していたので狙い通り
下がり切った所で買い続ければ後に左団扇。
ただのサラリーマンが独学でお小遣いを一千万円にする目標は
夢ではなく、大袈裟に言えば雪だるま方式で現実のものとなる。
当初は数千円の利益が出て喜べていたのが、
数万や十数万円の利益ではさほど表情に出ることもなく、
そのうち百万円単位を布団の中で右から左へ動かすようになる。
特技は投資、趣味は通帳を眺めること。
とはいえ現金化していないので
単に数字が大きくなっているだけなのだけど。
観光客相手の市場はコロナ渦で厳しい状況だったことだろう。
補助金で逆に潤っていたお店もあるかもしれないが・・・・・・、
旅行にきたならその地へお金を落としていきたい。
すっかりお昼時を逃したのに、
市場は観光客が多く活気があった。
初めて食べるサクラマスのお造りは悪くないが、
今後どうしても食べたくなるほどではなかったので、
釣り上げたらこれまで同様、元気なうちに水に帰そうと思った。
そんなサクラマスの上を行く美味しさはトキシラズのお造り。
トキシラズとはシロザケのことで、こういう味を絶品という。
さらに地元ではお目に掛かれないホッケのお造りだが、
これまた優勝である。
惜しむらくは本物のシシャモが見当たらなかったことだが、
それは仕方ないとして、あとはボタンエビにエンガワ、
花咲ガニ、蟹汁、イカにイクラ、
あぁお口の中が幸せになれるオンパレード。
温かいご飯も用意されており、とにかくご飯がすすむ。
さらには若い女性店員さんが炙りサケをおまけしてくださり、
その味に概ちゃんと顔を見合わせ大満足。
孤独のグルメではこれだけ沢山食べられないが、
二人のグルメはお互いのを食べられる特典がある。
チョコレートパフェとフルーツパフェを迷った時は、
それぞれ注文すればどちらも食べられる。
お腹を満たしたところで市場をぐるりとすれば、
お土産屋があった。
ここ北海道はヒグマがサケを銜えた木彫りの原産地であり、
日本中の実家に鎮座する三大置き物のひとつである。
残り二つは信楽の狸、最後はこけし。
自分が気に入り購入するのは問題ないが、
我々世代に対してのお土産であればもはやテロ行為。
そんな団塊世代あるあるを笑いながら眺めていると、
ご時世に対応した超可愛いぬいぐるみがあった。
お恥ずかしながら初の北海道旅行なので
いつから定番なのか知らないけれど、
売場面積の多くをシマエナガが占領している。
エナガはお馴染みの野鳥だけど、
シマエナガのデフォルメはなんて可愛いのだろう。
この可愛さに参ってしまい、
僕は持って帰られる最大サイズのシマエナガを連れて帰ることにし、
概ちゃんもなにやら色々と選んでいた。
このご時世に支払いは現金のみだったがお金を落とすに丁度良く、
ご高齢のおねーさん店主にお釣りは辞退することを伝えて帰ろうとしたら、
それはダメだと追いかけてきた。
おねーさんがちょっと待っててと言い残し、
一度戻って僕に手渡してくれたお菓子にはフィナンシェと書かれていた。
あら、これは縁起がいい。フィナンシェはフランス語で金融家。
おねーさんの三時のおやつをいただいて申し訳なかったが、
この味もまた美味しい思い出のひとつとなった。
Posted by Миру Україні at 07:07
│イトウ