2024年01月29日
イトウは心に宿る30
25Lの防水バックパックを背負い、
艶消しの黒に塗られたロッドケースを左肩に掛け、
右手でフルサイズのスーツケースを引き、まだ仄暗い街を歩いた。
午前五時二十分、街の片隅で概(おおむね)ちゃんと合流した。
昼間の大通りを堂々と歩けない二人の関係ゆえ人目を忍んだ
静かな出発。街はまだ静寂を保っているが、
概ちゃんが引く中型スーツケースのキャスターがアスファルト表面の
ギャップを拾ってやけに騒がしい。
夢の北海道旅行実現で嬉しいのはわかるが、
結婚式で空き缶を引きずるブライダルカーよろしく、
まだ布団の中で夢を見ている皆様を叩き起こすつもりらしい。
僕のスーツケースと交換し、軽く持ち上げバス停へ向かった。
到着したバス停で始発バスを待つのはまだ二人だけ。
天気は申し分なく早朝の気温も心地良く感じられ、
都会で着るには少々早い革ジャンを脱いだ。
幸い二人は世界の誰ともウイルス繋がりがなく今日まで来られたが、
COVID-19に二度三度と感染して命拾いした者もいれば、数人は鬼籍に入った。
自分に深く関わりのある者達はいまだ感染していないが、
知り合いに陽性反応が出るたび忍び寄る黒い影を実感し、
自分の責任で愛する者の命を奪いたくないと常に考えてきた。
ここから北海道までの行程で避けて通れないのが公共交通機関であり、
人口の多い都市部から僻遠の地へウイルスを持ち込みたくない
との思いは強い。
しかしながらいつも通りの意識を持ち行動すれば問題ないはず。
バス停にはちらほら乗客が集まってきたが、
誰もがマスクをして適正と思われる距離を保ち列を作った。
バスから電車に乗換え、駅で停車するたび乗客が増える。
そのほとんどが通勤および通学での利用客だろうか。
中には通院する方や、初孫に会いに行くご婦人に、
緊張の面持ちで会社の面接に臨む人だっているかもしれない。
きっと想像もできない事情を抱えた人だっている。
社会に生きる皆が車両に揺れている。
乗換え駅を降り、別の路線へ向かう通路はいわゆる朝のラッシュ。
決して広いとはいえない通路を人々が行き交い、
その群衆の中にロッドケースを傍らにする自分が異質であることを
認識していた。と同時に遊びに行く気持ちの余裕、優越感。
邪魔にならないよう流芯を外れた隅っこに寄り、
足早にする人々を見送ってから、また二人で歩きだした。
次に乗車した路線では駅ごとに乗客が減り、
車内に空間が広がりマスク越しに会話も許されるであろうほどになる。
僕達は荷物が大きいので座席を利用せずドアの側に立っていたのだが、
ドア側に立つ概ちゃんの前に立ちはだかり、触っていいか尋ねてみた。
痴漢の許可を求める人なんていないと概ちゃんは言う。
では遠慮なくと言うと、声を出すと睨む。
公然で妙な声を出すなんて概ちゃんそこは堪え忍ばないと。
道ですれ違うGG共が思わず振り向く光景も珍しくないスタイルの
概ちゃんを、あんなことやこんなことだって
好き放題できる優越感。でも電車でするのは公然わいせつ。
目的の駅に到着し電車を降りると、
後ろからご夫婦らしき二人も降りてきて、
奥様もしくは愛人かも知れない女性が除菌シートを一枚取出し、
パートナーの男性に手渡す姿がとてもスマートで感心した。
きっとこの意識が二人を感染とは縁遠いものにしているのだろう。
仲睦まじきは美しい。
八時五十分空港到着。
ご時世だろうか搭乗手続きは簡素の一言に尽きる。
久しぶりで不慣れな自分達でも呆気なく手続きを終えることができ、
しばし広々としたロビーで寛ぐ。
僕は思い出したようにカメラを取出し撮影準備に取り掛かった。
被写体は全米が濡れたGカップの概ちゃん。
ポートレート撮影は狙った表情を引き出すのに
会話を巧みに行う手腕も問われるため、
先ほどターミナルへ来るのに利用したシャトルバスで見た、
大きな広角レンズのキヤノンを首に掛けた男性と、
その彼女と思しき女性が目をキラキラさせておしゃべりしていた
様子を切り出した。
すると予想だにしなかった驚きの答えが返ってきた。
概ちゃんも一瞬男性と思ったらしいが、間違いなく女性だったよと。
な・・・・・・なんだってーー!
週刊少年マガジンだったかのMMR調査班よろしく驚愕の事実。
別に野郎だろうが女性だろうが僕に損益はないし
地球だって滅亡はしないのだけど、
LGBTQの時代であることを再認識し、
そしてラブラブな瞳になっていた女性が実は男性で、
つまりは男女のカップルで帳尻合わせになっているのではと
猜疑心が芽生えもした。
結果カメラを持つ自分の表情が様々に変化していた。
これまで僕達は、散歩中に上空の飛行機を見つけては
どこへ向かうのだろうなんて言っていた。
今度は僕達がその飛行機に搭乗して空高く舞い上がる。
フライト時間が迫り指定された搭乗口へ向かうと、
後から続々と集まる人々の姿を見て驚いた。
ちょっと、この人達って・・・・・・。
2024年01月18日
イトウは心に宿る29
たわわに実る果実を胸にもつ概(おおむね)ちゃんは、
はっきり言って魚釣りに理解がない。
休日は晴天予報だからのんびり魚釣りでもしようかという
提案のもとでレジャーフィッシングを楽しむならいざ知らず、
雨に打たれながら糸を垂らすだの、
増水が落ち着いたから緊急発進するだの、
凍てつく夜に水辺に立ったり、
仕事帰りが丁度時合いだから水辺でちょいとひと投げ・・・・・・
なんてことは許されない。
許可なくそのようなことが露見してしまえば、
ペッパーミル・パフォーマンスよろしく
圧縮袋が真空状態にされるが如しのお仕置きが待っている。
ただ、ちょっと頭がよろしくない釣人は経験上釣れるタイミングを
把握しており、同時に釣れない状況も知っているため、
休日だから魚釣りをするなどという生温いスタイルでは目的の魚を
釣り上げられない。
さらに同じ釣人でも理解されないかもしれないが、
僕と同じ領域に生きる釣人は、魚釣りという手段で魚の動きを知るので、
釣れないのを確認するための釣りもする。
釣れないことで、やっぱり産卵の為に移動する季節だなと納得し満足する。
明日仕事だろうが晩御飯を後回しにしようが、
濡れようが凍えようが優先すべき事柄はまず水辺に立ち投げること。
ちなみに僕の知っている鱸釣師も、
「この風、この肌触りこそ鱸釣りよ!!」といって
スクランブルされている。
もっともそのような気が触れたようなスタイルを一般人に説明を
試みようとも理解に苦しまれるのは明白であり、
しかしながら粘り強く説得を続けるのだけれど、
これを逃すと後悔するから行かせてほしいと力説するその口元が
綻んでいるらしく、その顔が憎たらしいと両の手で頬を掴まれる。
世の中には私と仕事どちらが大切なのかと問うてくる
非常に面倒な女性が実在するそうだが、
概ちゃんはそんな低次元な発言はしない。
魚釣りへの理解は乏しくも、僕の切実な気持ちを汲んでくれる。
ある時二人でお出掛けした帰りにまたとない気象条件だったので、
ちょっとだけ投げてくると僕だけ水辺へ向かい、
二投目で久しぶりに自己記録を更新する琵琶湖大鯰を釣り、
魚と一緒に撮影してもらいたく車中で待つ概ちゃんに
連絡をすると、暴風雨だったため拒否されたのだけど。
そもそも僕は異性のパートナーと共に魚釣りを楽しもうとの
考えを持ち合わせていない。
生きた魚を笑顔で掴める女性というのがどうも苦手で、
釣具屋でワームを吟味する姿より、コスメを選ぶ女性の姿が好きだ。
批判を覚悟で申し上げるならば、
釣りガールという人種より、
生きた魚を触ろうとしたら急に動いて小さな悲鳴を上げると同時に
出した手を引っ込める女性が好みだ。
カムルチーを愛でる僕と、いやーと腰が引けてる概ちゃん。
こういうのでいい。
そういったところで北海道へ釣具を持参するのは僕だけであり、
概ちゃんのスーツケースには衣類と生地面積の小さな下着だけなので、
スーツケースのもう片側には圧縮されたシュラフが鎮座した。
スーツケースに荷物を収めたなら、
ヘルスメーターに乗せて重量の最終確認をする。
ふんだんに釣具が収まる遊びに特化されたスーツケースは
航空会社が定めた規定重量まで僅かというところまで迫っていた。
これはお見事という他ないと喜び安堵していたのも束の間、
帰路のお土産の分がすっかり抜けていると概ちゃんに指摘される。
なるほど、
学生時代から夏休みの宿題は計画的かつ余裕を持って終え、
アルバイトで得たお金は使い切らず貯金し、
朝は時間を逆算して余裕をもって起床する優等生タイプの概ちゃん。
夏休みが終わっても宿題を提出する授業はまだ先なので大丈夫だの、
これまで借金こそしたことはないがアルバイトのお金は
ガソリン代に化け、
起床は朝食の時間を食い潰してでも布団の中で
形を失ったスライムのようになっていたい僕にはお土産概念など毛頭なかった。
ほんまそういうところ!と呆れ返られようが
釣具を死守せねばならず、
さらに僕の手荷物分はミラーレス一眼とレンズで
目一杯だったので、
お土産は概ちゃんの手荷物分に任せることにした。
僕は旅立ちの日まで毎日を楽しんできた。
幸い南海トラフ大地震で大地が揺らされることなく、
出発日を迎えることになる。
はっきり言って魚釣りに理解がない。
休日は晴天予報だからのんびり魚釣りでもしようかという
提案のもとでレジャーフィッシングを楽しむならいざ知らず、
雨に打たれながら糸を垂らすだの、
増水が落ち着いたから緊急発進するだの、
凍てつく夜に水辺に立ったり、
仕事帰りが丁度時合いだから水辺でちょいとひと投げ・・・・・・
なんてことは許されない。
許可なくそのようなことが露見してしまえば、
ペッパーミル・パフォーマンスよろしく
圧縮袋が真空状態にされるが如しのお仕置きが待っている。
ただ、ちょっと頭がよろしくない釣人は経験上釣れるタイミングを
把握しており、同時に釣れない状況も知っているため、
休日だから魚釣りをするなどという生温いスタイルでは目的の魚を
釣り上げられない。
さらに同じ釣人でも理解されないかもしれないが、
僕と同じ領域に生きる釣人は、魚釣りという手段で魚の動きを知るので、
釣れないのを確認するための釣りもする。
釣れないことで、やっぱり産卵の為に移動する季節だなと納得し満足する。
明日仕事だろうが晩御飯を後回しにしようが、
濡れようが凍えようが優先すべき事柄はまず水辺に立ち投げること。
ちなみに僕の知っている鱸釣師も、
「この風、この肌触りこそ鱸釣りよ!!」といって
スクランブルされている。
もっともそのような気が触れたようなスタイルを一般人に説明を
試みようとも理解に苦しまれるのは明白であり、
しかしながら粘り強く説得を続けるのだけれど、
これを逃すと後悔するから行かせてほしいと力説するその口元が
綻んでいるらしく、その顔が憎たらしいと両の手で頬を掴まれる。
世の中には私と仕事どちらが大切なのかと問うてくる
非常に面倒な女性が実在するそうだが、
概ちゃんはそんな低次元な発言はしない。
魚釣りへの理解は乏しくも、僕の切実な気持ちを汲んでくれる。
ある時二人でお出掛けした帰りにまたとない気象条件だったので、
ちょっとだけ投げてくると僕だけ水辺へ向かい、
二投目で久しぶりに自己記録を更新する琵琶湖大鯰を釣り、
魚と一緒に撮影してもらいたく車中で待つ概ちゃんに
連絡をすると、暴風雨だったため拒否されたのだけど。
そもそも僕は異性のパートナーと共に魚釣りを楽しもうとの
考えを持ち合わせていない。
生きた魚を笑顔で掴める女性というのがどうも苦手で、
釣具屋でワームを吟味する姿より、コスメを選ぶ女性の姿が好きだ。
批判を覚悟で申し上げるならば、
釣りガールという人種より、
生きた魚を触ろうとしたら急に動いて小さな悲鳴を上げると同時に
出した手を引っ込める女性が好みだ。
カムルチーを愛でる僕と、いやーと腰が引けてる概ちゃん。
こういうのでいい。
そういったところで北海道へ釣具を持参するのは僕だけであり、
概ちゃんのスーツケースには衣類と生地面積の小さな下着だけなので、
スーツケースのもう片側には圧縮されたシュラフが鎮座した。
スーツケースに荷物を収めたなら、
ヘルスメーターに乗せて重量の最終確認をする。
ふんだんに釣具が収まる遊びに特化されたスーツケースは
航空会社が定めた規定重量まで僅かというところまで迫っていた。
これはお見事という他ないと喜び安堵していたのも束の間、
帰路のお土産の分がすっかり抜けていると概ちゃんに指摘される。
なるほど、
学生時代から夏休みの宿題は計画的かつ余裕を持って終え、
アルバイトで得たお金は使い切らず貯金し、
朝は時間を逆算して余裕をもって起床する優等生タイプの概ちゃん。
夏休みが終わっても宿題を提出する授業はまだ先なので大丈夫だの、
これまで借金こそしたことはないがアルバイトのお金は
ガソリン代に化け、
起床は朝食の時間を食い潰してでも布団の中で
形を失ったスライムのようになっていたい僕にはお土産概念など毛頭なかった。
ほんまそういうところ!と呆れ返られようが
釣具を死守せねばならず、
さらに僕の手荷物分はミラーレス一眼とレンズで
目一杯だったので、
お土産は概ちゃんの手荷物分に任せることにした。
僕は旅立ちの日まで毎日を楽しんできた。
幸い南海トラフ大地震で大地が揺らされることなく、
出発日を迎えることになる。
2024年01月06日
イトウは心に宿る28
書籍や映像で旅をテーマにした魚釣りを目にしてきた。
ある釣人はスタッフを連れて海外へ飛んだ。
またある釣人は釣り仲間と共に魚を求めた。
単独で彼の地へ赴いた釣人は現地ガイドを頼りにした。
さらにストイックな釣人は単独で挑んだ。
楽しみ方は釣人の数だけあり、どれも素晴らしく憧れた。
だが僕の釣旅はそのどれでもなく、
少なくともこれまで見聞きしたことがないスタイル。
僕は異性を連れての釣旅を計画した。
いや、正確には引っ付いてきたと言うべきか。
念願の北海道釣行を実行すべく、
フライト・スケジュールを彼女に伝えると、
しばらくおいてから同じ機を予約したことが返信されてきた。
残り席が僅かだったのに椅子取りゲームよろしく滑り込んできたが、
急な大型連休をよく取得できたものだ。
旅先で魚釣りを楽しみ女性も楽しむ、いや、
女性と楽しみ、暇潰しで魚釣りを楽しむ。
初めて出会う景色の中で、
あの子とあんなことやこんなことができるなんて、
あぁなんと素晴らしいことだ。
北の大地の気温が上昇し、タンチョウが舞い上がり
ヒグマも発情する。
独り釣旅のなんと寂しいことか、
野郎と一緒に行く釣旅はさぞむさ苦しいことだろう。
例え旅費の全てを肩代わりしてもらえるとしてもその選択はない。
孤独の時間を楽しむソロキャンパーだって本当は異性を欲しているに違いなく、
美女が炊事場へ向かう姿を目で追ってしまう性を隠しきれていないし、
ソロキャンガールが孤独を埋めるようにSNSで発信して同情を誘っている。
心の奥底では抜群に相性が良い相手を求めているんでしょう?
孤独のグルメより二人でグルメ。異論は認めない。
異性と行く釣旅という心地よい響きを前に、
SNSで釣りガールに痛いコメントをしているGG共は
ハンケチを噛んで悔しがり、
女日照りが続く野郎共には垂涎の的に違いない。
こんなことを心に思っても口に出したり、
ましてやネットで書いてしまえば敵が増えてしまうので、
他所で話すことはご法度だ。
そもそも全世界の人々を敵に回そうとも、
同性の親友だの友人だのそんなものにも興味はなく、
愛する異性が一人側にいてくれればいい。
できることなら胸の大きな方が
より好ましいというのも付け加えたい。
僕は超然とした態度で荷造りに取り掛かる。
スーツケースに荷物を収納するいわゆるパッキングでは
困難を極めた。
嵩張る荷物の最たるものはウェーダーとシュラフだ。
向かう先の気温の幅広さにも困惑。
日中は夏日、朝夕は冷蔵庫の中、
もちろん夜間はストーブなしに過ごすことはできない。
半袖からジャケットまでを用意せねばならずこれらも嵩張る。
圧縮袋なるものを入手して衣類を詰める。
袋の上から体重を乗せて空気を外へ追いやり真空状態へもっていく。
なかなか便利なアイテムだと感心していると、
横から旅の同行者である概(おおむね)ちゃんが全然甘いと物申す。
これ以上は出ないと反論するも、まだ残っているからと概ちゃんは引かない。
もういいからと拒否したものの、不敵な笑みを浮かべて袋を奪われた。
概ちゃんの手から無理矢理空気が絞り出されて行く様が
あの苦しい時間と重なり、腰が引けて目を背けたくなる。
もうやめてという叫びは火に注ぐ油でしかない。
ほらまだ出るじゃないと得意げに絞り出し、
全て出し切り膨らみがなくなった袋を見て僕は震えあがった。
ある釣人はスタッフを連れて海外へ飛んだ。
またある釣人は釣り仲間と共に魚を求めた。
単独で彼の地へ赴いた釣人は現地ガイドを頼りにした。
さらにストイックな釣人は単独で挑んだ。
楽しみ方は釣人の数だけあり、どれも素晴らしく憧れた。
だが僕の釣旅はそのどれでもなく、
少なくともこれまで見聞きしたことがないスタイル。
僕は異性を連れての釣旅を計画した。
いや、正確には引っ付いてきたと言うべきか。
念願の北海道釣行を実行すべく、
フライト・スケジュールを彼女に伝えると、
しばらくおいてから同じ機を予約したことが返信されてきた。
残り席が僅かだったのに椅子取りゲームよろしく滑り込んできたが、
急な大型連休をよく取得できたものだ。
旅先で魚釣りを楽しみ女性も楽しむ、いや、
女性と楽しみ、暇潰しで魚釣りを楽しむ。
初めて出会う景色の中で、
あの子とあんなことやこんなことができるなんて、
あぁなんと素晴らしいことだ。
北の大地の気温が上昇し、タンチョウが舞い上がり
ヒグマも発情する。
独り釣旅のなんと寂しいことか、
野郎と一緒に行く釣旅はさぞむさ苦しいことだろう。
例え旅費の全てを肩代わりしてもらえるとしてもその選択はない。
孤独の時間を楽しむソロキャンパーだって本当は異性を欲しているに違いなく、
美女が炊事場へ向かう姿を目で追ってしまう性を隠しきれていないし、
ソロキャンガールが孤独を埋めるようにSNSで発信して同情を誘っている。
心の奥底では抜群に相性が良い相手を求めているんでしょう?
孤独のグルメより二人でグルメ。異論は認めない。
異性と行く釣旅という心地よい響きを前に、
SNSで釣りガールに痛いコメントをしているGG共は
ハンケチを噛んで悔しがり、
女日照りが続く野郎共には垂涎の的に違いない。
こんなことを心に思っても口に出したり、
ましてやネットで書いてしまえば敵が増えてしまうので、
他所で話すことはご法度だ。
そもそも全世界の人々を敵に回そうとも、
同性の親友だの友人だのそんなものにも興味はなく、
愛する異性が一人側にいてくれればいい。
できることなら胸の大きな方が
より好ましいというのも付け加えたい。
僕は超然とした態度で荷造りに取り掛かる。
スーツケースに荷物を収納するいわゆるパッキングでは
困難を極めた。
嵩張る荷物の最たるものはウェーダーとシュラフだ。
向かう先の気温の幅広さにも困惑。
日中は夏日、朝夕は冷蔵庫の中、
もちろん夜間はストーブなしに過ごすことはできない。
半袖からジャケットまでを用意せねばならずこれらも嵩張る。
圧縮袋なるものを入手して衣類を詰める。
袋の上から体重を乗せて空気を外へ追いやり真空状態へもっていく。
なかなか便利なアイテムだと感心していると、
横から旅の同行者である概(おおむね)ちゃんが全然甘いと物申す。
これ以上は出ないと反論するも、まだ残っているからと概ちゃんは引かない。
もういいからと拒否したものの、不敵な笑みを浮かべて袋を奪われた。
概ちゃんの手から無理矢理空気が絞り出されて行く様が
あの苦しい時間と重なり、腰が引けて目を背けたくなる。
もうやめてという叫びは火に注ぐ油でしかない。
ほらまだ出るじゃないと得意げに絞り出し、
全て出し切り膨らみがなくなった袋を見て僕は震えあがった。
2024年01月02日
イトウは心に宿る27
釣具の準備をほぼ終え、あとはヒグマ対策の
武器類が飛行機に持込めるのかを調べると、
預け荷物ならばナイフは可能であった。
携行する武器の第一候補はGERBER。
湿原の中でヒグマがこうきたらこう、
もしくはこうしてきたらこう、
対峙するのがoso18だろうが死角なし。
このGERBERは魚釣りを通して知り合った釣友からの
いただきもの。
僕と同じくwhiplash factoryを好む、
ローディーラー使いであり、サーペントラインジング使い。
もちろん色々な魚種を楽しむし、昨今のキャンプブームより前から
バイクに乗ってソロキャンプをする、
楽しさの刺激を与えてくれる存在だ。
魚釣りでお手合わせをしたとき、
初めての挑戦なのに僕より先にルアーで
オヤニラミを釣り上げたことがあり、ひれ伏すしかなかった。
ある初冬の田園地帯では自作の小型ストーブでお湯を沸かして
コーヒーを淹れてくださったことを思い出す。
まだ野鳥に興味がなかった頃、
早春の海でクロダイ・スズキ釣りをしていると、
上空を飛ぶミサゴとトビの見分け方を教えてくれた。
それにカムルチー・ナマズ・カネヒラ・ヤリタナゴ・アブラボテ・
ヌマムツ・オイカワ・オオクチバスetc...一緒に色々楽しんだ。
後に聞いた話では僕と同じく辛い時期を過ごしたそうで、
その気持ちが痛いほどわかったし、
頑張ったから暗いトンネルを抜けると楽しい時間が待っていた。
寡黙で優しい心の持ち主であるその釣友がGERBERと一緒に、
五円玉の穴にコードを通して結んだものを手渡してくださった。
ナイフなので御縁が切れないようにとのことだった。
こういった相手の気持ちに寄り添える繊細な気遣いが素晴らしく、
雑を生きる僕と大違いだ。
一本のGERBERが湿原に入る僕に勇気をくれた。
余談だが、そんなお気に入りのGERBERが作られている工場を調べると、
なんとサツキマスを狙っている近所だったことを知り、
いわゆる聖地巡礼的にG.SAKAI(ガーバー・サカイ)を訪れたことがある。
そしてもうひとつ、シュマグもいただいた。
アラブスカーフとも呼ばれる広くて厚手のバンダナのような布で、
いまでも渓流へ入る時や連泊釣行には必ず携え、
山での野鳥撮影にもブラインドや防寒で重宝している。
ミリタリーグッズが好きだけど、なかなか手を出せずにいた
僕には最高の贈り物達。
そうそう、託されたライヴワイアのフラッシング・イーヴルカラーも忘れずに。
武器類が飛行機に持込めるのかを調べると、
預け荷物ならばナイフは可能であった。
携行する武器の第一候補はGERBER。
湿原の中でヒグマがこうきたらこう、
もしくはこうしてきたらこう、
対峙するのがoso18だろうが死角なし。
このGERBERは魚釣りを通して知り合った釣友からの
いただきもの。
僕と同じくwhiplash factoryを好む、
ローディーラー使いであり、サーペントラインジング使い。
もちろん色々な魚種を楽しむし、昨今のキャンプブームより前から
バイクに乗ってソロキャンプをする、
楽しさの刺激を与えてくれる存在だ。
魚釣りでお手合わせをしたとき、
初めての挑戦なのに僕より先にルアーで
オヤニラミを釣り上げたことがあり、ひれ伏すしかなかった。
ある初冬の田園地帯では自作の小型ストーブでお湯を沸かして
コーヒーを淹れてくださったことを思い出す。
まだ野鳥に興味がなかった頃、
早春の海でクロダイ・スズキ釣りをしていると、
上空を飛ぶミサゴとトビの見分け方を教えてくれた。
それにカムルチー・ナマズ・カネヒラ・ヤリタナゴ・アブラボテ・
ヌマムツ・オイカワ・オオクチバスetc...一緒に色々楽しんだ。
後に聞いた話では僕と同じく辛い時期を過ごしたそうで、
その気持ちが痛いほどわかったし、
頑張ったから暗いトンネルを抜けると楽しい時間が待っていた。
寡黙で優しい心の持ち主であるその釣友がGERBERと一緒に、
五円玉の穴にコードを通して結んだものを手渡してくださった。
ナイフなので御縁が切れないようにとのことだった。
こういった相手の気持ちに寄り添える繊細な気遣いが素晴らしく、
雑を生きる僕と大違いだ。
一本のGERBERが湿原に入る僕に勇気をくれた。
余談だが、そんなお気に入りのGERBERが作られている工場を調べると、
なんとサツキマスを狙っている近所だったことを知り、
いわゆる聖地巡礼的にG.SAKAI(ガーバー・サカイ)を訪れたことがある。
そしてもうひとつ、シュマグもいただいた。
アラブスカーフとも呼ばれる広くて厚手のバンダナのような布で、
いまでも渓流へ入る時や連泊釣行には必ず携え、
山での野鳥撮影にもブラインドや防寒で重宝している。
ミリタリーグッズが好きだけど、なかなか手を出せずにいた
僕には最高の贈り物達。
そうそう、託されたライヴワイアのフラッシング・イーヴルカラーも忘れずに。