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Posted by naturum at

2024年03月10日

イトウは心に宿る37

流れの中央付近も泥濘だが深く沈むことはなく、
水深は平均して膝下ほどの浅い河川。
川幅は広いところで約七メートルで、
水温は冷たくイワナ属の適水温のようだが、
湿原河川といえばサケ科の宝庫である。
本当にこのような泥底で生活できるのだろうか疑問に感じたが、
どこかに礫底があるのかもしれない。
当初流れは緩やかに思えたが、
非常に押しが強く水の豊さを感じられる。
岸から覆いかぶさる草に、至る所に倒木や沈木が散在し、
S時ヘアピン・カーブが連続する湿原河川の
本領発揮といった川相。


とてもイワナ釣りとは思えない初めてのシチュエーションだが、
初めての場所で初魚を釣り上げる自分に課した実力テストだ。
水の流れを読んでアップストリームでミノーを躍らせ
エゾイワナを誘う。
ミノーの後ろに魚影が追尾していないか注視するが、
なかなか姿を現してくれない。

岩や石に流れがぶつかる水流の変化がここにはなく、
川底が単調で魚が定位する場所がいまいち把握できず、
考えられる全ての場所にミノーを通すも生命感はない。

北海道の魚はめっちゃ簡単やと思っていたのに・・・・・・。

水の色は濁りが少なく透明度が高いと言えるが、
両岸の樹木が川の中央まで覆いかぶさるアーケードとなり、
木漏れ日が森の緑を川面に落とし、辺り一面が緑色に染まる。
このような神秘的な場所で魚釣りをしたことがなくうっとりし、
魚は釣れないが北海道の湿原河川に立っている事実だけで
満たされてしまう。
しかしヒグマといつ遭遇してもおかしくないことを思い出せば
背筋が寒くなる。

さらに上流へ向かうが高低差を感じられない川のため、
流れに逆らって進むという表現になるが、
どこも似たような場所の連続で魚の生命感がない。
次第に近畿圏の渓流のように、根こそぎ釣っては
クーラーボックスにぶち込んで持って帰る輩が
この川にもいるのではないかと訝しみつつさらに遡る。

実釣開始から小一時間が経過しているはずなので、
一度マップで自分の位置を確認してみると、
なんと全然進んでいない。川が蛇行しているので、
直線距離ではたいしたことがない。
さらに進むべきか退散か、これも自分の判断だ。
森の奥を見つめると不思議と釣れるような気にさせる。
鬼が出るか蛇が出るか、僕の本能は前へ進めと囁いた。

狭かった川幅が広くなり開けた瀬に出てきた。
こういった場所はカワムツにオイカワ、ウグイにタカハヤ、
アブラハヤが好きそうな流れだ。
陸生植物が覆いかぶさる岸際に流れの変化ができており、
きっと流木が沈んでいるのだろう、
そこへアップクロスでミノーを通すと二尾の黒い影が追尾してきた。
この時の高揚感といったらなく、早く魚の正体が知りたい。

フックに触れなかったのでまだ喰ってくるはず。
魚の大きさを考慮してミノーのサイズを一回り
小さなものに交換して次のキャスト。
アップクロスで投げたミノーが流れに押されてターンをしていると、
手応えを感じた。
釣友が作ってくださった竹ランディングネットを水に浸けて濡らし、
ちいさなちいさなエゾイワナを枠の中へ誘った。

エゾイワナは正式な名称ではなく標準和名アメマス。
降海する前のアメマスである通称エゾイワナに会いたかったのだ。
イトウの養殖魚は珍しくないけれど、
エゾイワナはここへ来なければお目に掛かれない。
凄い、素晴らしい。
ニッコウイワナ・ヤマトイワナ・ゴギを釣ってきたけれど、
そのどれも雰囲気が違い、エゾイワナも僕の目には個性的に映る。
それは例えるならブリとヒラマサ、
カムルチーとタイワンドジョウを瞬時に見分けられるように。

エゾイワナを水から一度も上げることなく撮影をし、
流れに帰って行く姿を見届けてから周囲の風景も撮影した。
初めての北海道で出会った魚が生息していた場所を、
今後何度も眺めてはうっとりできることだろう。

さあこの調子でどんどん釣ってやるなんて気持ちは湧いてこず、
何尾釣っただの最大長寸だのには興味なく、
必要以上に魚を傷付けることをしたくない。
今回の釣行目的はエゾイワナに出会うことであり、
満足したので踵を返すことにした。

赤いリボンを回収し、車に戻るとお昼前。
日の出から七時間掛かった初魚、いや違う、
今日は出発してから二日目だ。実に感慨深い初魚であり、
一生忘れることはないだろう。

車のリアゲートを開放してラゲッジルームに腰を掛け、
昨夜セコマで購入したパンを頬張り、
先ほどの出来事を反芻して悦に入ると、
黒の四輪駆動車が停車してひとりの男性が近寄ってきた。







  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月09日

イトウは心に宿る36

姫尻川水系マタシメリ川に見切りをつけ、次の一手を考える。
水嵩が増しているなら上流部へ向かうのが正解だと判断するが、
マタシメリの上流は期待できそうにないので、
姫尻川水系の上流部で繋がるチチハズミ川へ向かう。
チチハズミは数ヵ所の有望場所があり、
ここはイトウではなくエゾイワナ(アメマス)の生息が期待できそうだ。
次なる場所のGPS座標をタップして音声案内に従い移動開始。
「まったくいまどきの釣人は地図も使えんのか」と、
昔の釣師に白眼視されそうだ。

音声案内がいきなり国道を外れて牧場地帯の道を指示し、
広大な牧場に挟まれた道を進んでいると、
かなり遠くに白くて巨大な鳥とわかる二羽の姿を確認。
出た!タンチョウだ。
ぜひ野生のタンチョウを撮影したいと思っていたが、
有名なタンチョウ生息地に行かずして出会えるとは幸運。
この道を案内した奴ナイス。

車を路肩に寄せて急いで超望遠レンズに交換する手が
うまく動かない。おまけにカメラ設定まで狂っており、
ファインダーを覗いてシャッターボタンを押すと動画撮影が始まった。
車から降りず窓を開けて狙うが、
相手は警戒しているのかあまり近寄らせてくれない。
二羽と思っていたが若鳥が後ろに隠れているのが見え、もう最高。
それにしても親鳥はでかい。
淡路島と東播でコウノトリを撮影したが、
タンチョウはさらに大きさに勢いがあるように思えた。
ひとしきり撮影し、予想外の出来事に大満足したが、
実の所この一帯ではタンチョウが珍しくない事を知る由もなかった。

チチハズミ川の中流部に到着し、
川を眺めると流量は落ち着いているらしく、
酷い濁りもないため魚釣りは可能のようだ。
なにはともあれ移動の判断が正解だと思えた。

入川時の撮影、位置情報等々の儀式を終えて、
ここでもタックルはミスディミーナーSTのままいざ入川。
川岸は釣人が歩いた痕跡があり、
定期的に人の出入りがあるようだが、
その跡からして極一部の人間であろうことがうかがえた。
岸から投げることができず、
水深が浅いのでウェーディングで釣り進めることにしたが、
一歩川に踏み入れた瞬間、違和感が襲う。
川底が泥である。岸際は足が吸い込まれるように沈み、
慎重に踏み出した自分を褒めた。
これはどうやら湿原河川の一歩目は気をつけろと
僕の潜在意識に刷り込まれていたらしく、
その理由はこれだ。


『文豪たちの釣旅「佐々木栄松 カムイの輝く光を浴びて」』
大岡玲著
P156「・・・何ほどのこともなかろう、と内心高をくくり、というか、
心の準備をほとんどせずにうかうかと湿原の川辺に入りこんだ私を
待っていたのが、強烈な泥の吸引力だった・・・・・・
その途端、私の体重は思いがけないスピードで
私を泥の内部へと・・・・・・マンボNO.5が鳴り響き・・・」

大岡玲氏が挑戦したイトウ釣りでは、
二ページに渡って声を出して笑ったくだりがあり、
(ご本人様は笑いごとではなかったはずだ・・・・・・)
本を開こうとすればP156が勝手に開くほどお気に入りのページだ。
それにしても大岡玲氏の「強烈な泥の吸引力」
「私を泥の内部へと」と言った表現力の強さ豊かさ!
やっぱりもっとも好きな作家である。

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Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月08日

イトウは心に宿る35

北海道の夜明けは早い。
一日の始まりかつ一日の出来事で最難関である起床を、
概ちゃんの力を借りて目覚めることができた。
旅の途中であろうと放っておくと昼まで寝ている僕は、
朝の起床が人生でもっとも辛い。
時間を確認すると4:30、その文字を見て気絶しそうになる。

概ちゃんはヒグマが待つ湿原に行きたくないし、
僕も連れて行きたくないのでお留守番してもらい、
「本当に放って行くとか信じられへん」という言葉に
申し訳ない気持ちでいっぱいだと伝えれば、
「口元が緩んで隠しきれてない!」という言葉に
後ろ髪を引かれつつ、僕は手を振り初舞台へと向かった。

発車前に、事前にメモしていたGPS座標を眺めた。
初日に走った実感として北海道は想像以上に広大で、
ベース地から遠くの場所は時間の浪費が激しいことが予想され、
その川がよろしくなければ憂き目にあうのは明白だった。
よってできるだけ近場から探釣するのが望ましく、
まずは何を釣りたいか率直な気持ちを自分に問うてみた。
イトウは最後でいい。
その気持ちは原産地へ来ても揺らぐことはなく、
北海道のみ生息する天然魚である、あの魚とあの魚にまず会いたい。
実は飛行機の中や布団の中でもこの二種を決めあぐね、
ここで天秤に掛けてみると、ベース地からすぐ近くに生息する
あの魚、エゾイワナに気持ちが傾いた。もう一種はあとのお楽しみだ。
そうと決まればシフトレバーをドライブ・レンジに放り込み、
ゆっくりステアリングを右に切って道路に出た。

14項で記述した通り広大な流域面積を抱える北海道は、
一級河川13水系1129河川と、
二級河川230水系467河川があり、
長さは270kmや150km級が大蛇の如く横たわる。
さらには植物の要塞に牙を剥く守護神が闊歩しているため、
大胆にも河川名を記述する。
気持ちが負けて検索して行くも良し、
僕と同じ領域に生きる釣人なら他力を嫌い自力探釣するだろう。
これから向かうは、その名も麗しき姫尻川水系の支流マタシメリ川。

駐車位置は調べていた通り問題なかったが、
ここ以外に駐車スペースは見当たらない。
ゆえに狙いたい場所と必ずしも一致しなければ、
歩いて水辺に出られるのか、
はたまた水辺に出られても釣りができるのか、
なかなか実釣とならない。

狙いは小形のエゾイワナなので、
ロッドはローディーラー・シリーズで
もっともアンダーパワーのミスディミーナーST。
とはいえそこそこのアメマスが掛かっても耐えてくれるだろう。
この日まで部屋の壁に飾っていたミスディミーナーSTが、
待望の初おろしである。

装備もろもろ準備万端整った。
まずは概ちゃんに用意してもらった
ひとヒロの赤いリボンを湿原の入り口に結び、
入川する場所を撮影し、画像と位置とこれから開始することを
概ちゃんに送信。
それから湿原を抜けて川に出たところに、もう一本の
赤いリボンを木にくくりつけ垂らす予定だ。
これで迷子になることはないだろうし、
緊急時は救助されやすくなるはずだ。

湿原を抜けている時に嫌な音が聞こえていたが、
目の前に川が現れると深く嘆息した。
二日前の台風はここを直撃こそしなかったが、
余波で数日間に渡って大雨を降らせ大増水だ。
勝手知ったる川であれば水位とライブカメラで確認し、
過去のデータと照らし合わせて決行か断念を判断するが、
現実を受け入れるしかない。

平常時の水位を見たことがなくても、
遥かに増水しているのは地形を見れば理解できるが、
湿原河川ゆえに水の色は通常なのか、
酷く濁っているか判断しかねる。
いずれにせよこれだけ流量が多いと魚が定位するところがないため
投げるところがない。
投げる気力が湧かないが、通過儀礼で始球式的に投げてみた。
ググンと強い魚信があり、やっぱり北海道の川は一味違う!
などという甘美な現実にありつけるはずがなかった。

もうひとつの厳しい現実は、立ち位置から上にも下にも
移動するのが困難であること。これも予想通り。
ウェーディングは危険。なんとか岸沿いを
行ったり来たりできなくはないがその距離は短く、
そもそもこの辺りに魚が潜んでいそうにないため
徒労に終わるだろう。
このような時は速やかに勇気ある撤退。

小手調べでエゾイワナを選んだくせに、これが現実。
これが未知なる湿原河川。
前途多難な北海道釣行が始まった。






  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月07日

イトウは心に宿る34

ホットシェフのカツ丼と沢山のお菓子をカゴに入れ、
初めて目にするリボンナポリンとやらに手が伸びた。
事前情報で知ることがなかった目新しい飲料は、
リボンナポリンと韻を踏むキャッチーな商品名と味で
僕を虜にした。

その後、宿の近くで天の川撮影をすべく外に出ると、
日中の気温17度からうんと下がって5度になり、
巨大な冷蔵庫の中に放り込まれた寒さ。

今回の旅行の目的のひとつに星景撮影があり、
星をもっとも美しく撮影できる新月の大潮を選び、
後にも先にもこれ以上ない星景写真が撮れることを願い、
ここへ来る直前にデジタル一眼レフから高感度撮影に強い
ミラーレス一眼に乗り換え、さらには18mmスタートの
超広角レンズも新調していた。
大袈裟に例えるなら『原始の夜空』の下に立てるのではと期待して。
その期待する理由ははっきりしている。
梅田や心斎橋のような不夜城なんてものがなく、
人口より牛が勝る見渡す限りの牧場と湿原。
未明から働く酪農家は二十時を過ぎれば家の灯りを消すはずで、
四方八方ほぼ光がない抜群の環境なのだ。

吐く息白く、晴天の夜空を見上げると夥しい星と天の川は
確認できたが・・・・・・これまで出会った抜群に美しい星空の
順位としては表彰台に立つことはできない。
深夜にもう一度、こっそり三脚とカメラを持って外へ出たものの、
天の川の位置が変わっていただけで、
溜息が漏れるほどの星空を観察することはできなかった。

始発のバスに乗り、電車を乗り継ぎ、シャトルバスから飛行機へ、
そして車で楽しいトークを弾ませ漸く辿り着いた北の大地。
とっておきの楽しみだった星空には落胆したが、
ホットシェフのカツ丼だけは期待通りの美味しさで僕を慰めてくれ、
移動だけで一日を費やした初日の幕が下りた。






  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月05日

イトウは心に宿る33

市の中心部から再出発し、一回、二回と交差点を曲がるだけで
いつ動物が飛び出してもおかしくない森の中になり、
いよいよ野生の王国らしくなってきた。
延々進むと広大な牧場が現れ、
これぞザ・北海道だと概ちゃんと喜んだのも束の間、
五分も経てば見飽きてしまう。
変化が乏しい変わらぬ景色。
道なりに進んでいるのに、
あれ、さっきこの道通ったよね?なんてボケも飛び出す。
北海道を好きになる色々な理由のひとつに、
広大な景色に惚れ、毎日この景色を眺めながら生活したくて
北海道に移住した人を知っているが、
我々には耐えられない苦痛だ。

ムッシュかまやつの
『なんにもない なんにもない まったくなんにもない♬』
が流れてこようというもの。

しかもこの道、ひっきりなしにフロントガラスに昆虫たちが衝突し、
昆虫好きを自負する僕でも嫌気がさすほどで、
どうやら体の柔らかいカゲロウやトビケラではなく、
牧場の堆肥を飛び回る昆虫だ。
そういえばGG共が乗るハーレー軍団を見かけたけれど、
フルフェイスじゃないし万歳ハンドルで
体の前面ムシだらけに違いない。

時速200km/h巡航が可能で、
リッターSSなら余裕で299km/h出せる道なのに、
制限速度が50km/hだなんて苦行でしかない。
積雪を考慮し一歩譲って60km/hでもないのかと。
野生動物の飛び出しが頻繁にあるので80km/hは無謀かつ無慈悲だけど。

道が単調である。景色が止まっている。進んでいる感じがしない。
何度でも言おう、この上なくつまらない。
そんな代り映えのない景色に、ある記憶が蘇ってきた。
そうだ、白バイ野郎ジョン&パンチだ。
こんな道路脇から緊急発進してくるんだ。
ほら、このいかにも速度取締りをしていそうな直線で
やっぱり餌食になった乗用車が停車していた。
先頭のペースカーに続き等間隔で走る後続車の全てが
小魚の群れとすれば、一匹だけ群れから外れて奇抜な行動に出ると、
群れを眺めるだけのおとなしかった捕食者が
急に興奮して襲い掛かる。
魚釣り愛好家であれば、
そのような光景を目の当たりにしたことがあるだろう。
結果、一定の速度で走行していたお利口さんの車列が、
違反車両を横目に通り過ぎる。

地獄の道はまだ続き、道の長さの分だけ北海道が嫌いになってきた。
これだけ走ってもコンビニすら見当たらないことを
概ちゃんに投げかけると、彼女も気づいていた。
そう、だってここは北海道だもの。
遥々マクドナルドまで行けばイートインからの
テイクアウトする複合技が飛び出し、
燃料代を含めればもはやバリューセットとは呼べない。
以前ニュースで見たのは、
ローソン日本最北店のオープン日には大勢が押し掛け、
からあげクンを嬉しそうに大量購入していた人達の姿。
大手コンビニ三社に徒歩で行ける環境に住んでいても、
これっぽっちもありがたみを感じられない
自分達は不幸なのかもしれない。

いったいどれくらい走ったのだろう、
ようやく宿に到着する頃にはすっかり陽が沈み、空には星が瞬いていた。
その前に食料の買出しをせねばならず、
宿から最寄りのコンビニを検索すると、
似たような距離になんと三店舗も見つかるミラクル。
どれでもいいが少しでも近いコンビニを調べると、
なななんと車で九分も掛かる。
ほふく前進で掛かる時間かと思ったよ。
これは徒歩で行ける距離ではないし、
そんなことをすればヒグマに食料を奪取されるやつだ。
ちなみに箕面はニホンザルに食料を強奪されるが、
北海道に野生のニホンザルは生息していないらしい。


コンビニとはいえここは北の地、
念の為に営業時間を調べるとやはり24h営業ではなかった。
油断していると危ないところだ、
ここは北海道なんだぞと何度も自分に言い聞かせる。

そうして向かったコンビニは、
北海道でメジャーなセイコーマート。念願のセコマだ。
事前に調べていたが、ホットシェフという店内で
調理したお弁当が人気なのだ。
店内に入ると、あ、あぁという心の声が漏れた。
女性スタッフが金髪だったのだ。
1980年代を最後にお目に掛かっていないので
郷愁に駆られたのと同時に、
金の亡者としては縁起の良さを感じられた。







  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月04日

イトウは心に宿る32

街路樹の葉は暖色に染まり、
中には落葉して地面を彩るものもある。
北海道はすっかり秋なのだ。
季節の進行に驚き、一足お先の紅葉ドライブ。
おそるおそるパワーウインドウなるもののスイッチを押すと
自動で窓が下がることに感動。
秋の澄んだ空気が車内を巡り、
快適性を優先して装備されているエアコンも、
やはり自然の空気の美味しさには敵うまい。
コンプレッサーは重量増しになるだけでデメリットでしかないと
吐き捨てようものなら概ちゃんに肩を揺すられ、
「エアコンのない車なんて乗りたくないで」と言われる。
車内は普通の声量で会話ができるほど静寂なエンジンで、
サスペンションは乗り心地を重視しているのであろう
スプリング・バネレートと、ショックアブソーバーの
コンプレッションとリバウンドのセッティングが絶妙で、
ホールド性は皆無のくせに無駄に厚みのあるシートと相まって
乗り心地の良さだけは堪能できる。
移動するだけの手段ならこの上なしの乗り物であるが、
スロットルに呼応した吸気音も、耳をつんざく排気音もなく、
カムプロフィールもマイルドな吹け上がりで
まったく退屈な乗り物だ。
あの尖ったカム作動角による不安定なアイドリングが
しびれるのに、なんてことだろう信号で停車するたびに
黙り込むエンジンに戸惑ってしまう。
僕の肩を揺すりながら「アイドリング・ストップは普通やから」
「これが普通の車やねんで」と概ちゃんは言った。
この車とは一週間だけのお付き合いだが、
やはり自分で組んだエンジンでなければ愛せないと僕は寂寥を覚えた。

レンタカー店から最寄りの市場へ到着。
最寄りといえどここは広大な地北海道ゆえに
距離と時間概念が少々違うらしく、自動車で三十分も離れた場所なのに
すぐそこになるらしい。
しかも信号がほとんどなく渋滞とも無縁につき、
三十分走行すれば相当な距離を移動することになる。

概ちゃんは水辺に直行してもいいと気遣ってくれるが、
試算によると到着時間は水辺の下見すら不可能な時間帯なので、
旅行を存分に楽しむべく料理に舌鼓を打つことにする。
北海道の美味しいものといえば、北海道で食べたいものは、
北海道ならではといえば、海鮮でしょう!と概ちゃんと意気投合。
古い建物の駐車場に滑り込むと料金徴収ゲートはあるものの
稼働しておらず無料で停められた。
高知県の有名なんちゃら市場は、
数千円の買い物をしないと駐車料金をとるせこいシステムなのに、
ここはなんと親切なのだろう。
なんちゃら市場は義子の職場だったので遠慮なく言わせてもらう。

駐車場から市場の入口へ向かう途中でスマホのアラームが鳴った。
十四時四十五分だ。後場の終わり直前なので株価を確認し、
安ければ買い、高ければほくそ笑み、
値動きが小さければつまらんとスマホの画面を閉じる。
旅行中であってもたった数秒の確認で得ができる。
土地を貸している人の怠惰な儲けには敵わないけれど、
投資家も寝ている間や遊んでいる間も利益がでる。
折しもコロナ渦からの復活中で、17000円まで落ちた日経平均株価が
27000円まで上がり、この夏は乱高下していたので狙い通り
下がり切った所で買い続ければ後に左団扇。
ただのサラリーマンが独学でお小遣いを一千万円にする目標は
夢ではなく、大袈裟に言えば雪だるま方式で現実のものとなる。
当初は数千円の利益が出て喜べていたのが、
数万や十数万円の利益ではさほど表情に出ることもなく、
そのうち百万円単位を布団の中で右から左へ動かすようになる。
特技は投資、趣味は通帳を眺めること。
とはいえ現金化していないので
単に数字が大きくなっているだけなのだけど。

観光客相手の市場はコロナ渦で厳しい状況だったことだろう。
補助金で逆に潤っていたお店もあるかもしれないが・・・・・・、
旅行にきたならその地へお金を落としていきたい。
すっかりお昼時を逃したのに、
市場は観光客が多く活気があった。

初めて食べるサクラマスのお造りは悪くないが、
今後どうしても食べたくなるほどではなかったので、
釣り上げたらこれまで同様、元気なうちに水に帰そうと思った。
そんなサクラマスの上を行く美味しさはトキシラズのお造り。
トキシラズとはシロザケのことで、こういう味を絶品という。
さらに地元ではお目に掛かれないホッケのお造りだが、
これまた優勝である。
惜しむらくは本物のシシャモが見当たらなかったことだが、
それは仕方ないとして、あとはボタンエビにエンガワ、
花咲ガニ、蟹汁、イカにイクラ、
あぁお口の中が幸せになれるオンパレード。
温かいご飯も用意されており、とにかくご飯がすすむ。
さらには若い女性店員さんが炙りサケをおまけしてくださり、
その味に概ちゃんと顔を見合わせ大満足。
孤独のグルメではこれだけ沢山食べられないが、
二人のグルメはお互いのを食べられる特典がある。
チョコレートパフェとフルーツパフェを迷った時は、
それぞれ注文すればどちらも食べられる。

お腹を満たしたところで市場をぐるりとすれば、
お土産屋があった。
ここ北海道はヒグマがサケを銜えた木彫りの原産地であり、
日本中の実家に鎮座する三大置き物のひとつである。
残り二つは信楽の狸、最後はこけし。
自分が気に入り購入するのは問題ないが、
我々世代に対してのお土産であればもはやテロ行為。
そんな団塊世代あるあるを笑いながら眺めていると、
ご時世に対応した超可愛いぬいぐるみがあった。
お恥ずかしながら初の北海道旅行なので
いつから定番なのか知らないけれど、
売場面積の多くをシマエナガが占領している。
エナガはお馴染みの野鳥だけど、
シマエナガのデフォルメはなんて可愛いのだろう。
この可愛さに参ってしまい、
僕は持って帰られる最大サイズのシマエナガを連れて帰ることにし、
概ちゃんもなにやら色々と選んでいた。
このご時世に支払いは現金のみだったがお金を落とすに丁度良く、
ご高齢のおねーさん店主にお釣りは辞退することを伝えて帰ろうとしたら、
それはダメだと追いかけてきた。
おねーさんがちょっと待っててと言い残し、
一度戻って僕に手渡してくれたお菓子にはフィナンシェと書かれていた。
あら、これは縁起がいい。フィナンシェはフランス語で金融家。
おねーさんの三時のおやつをいただいて申し訳なかったが、
この味もまた美味しい思い出のひとつとなった。





  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年03月02日

イトウは心に宿る31

搭乗口へ集まる人々の装いを見て思わず笑ってしまう。
気温にそぐわない厚着をした我々とは反対の、
薄着でさらにはサンダルを履いた人々がいる。
どうやら薄着の人達は沖縄行きの飛行機に乗るらしく、
その誰もが若くて陽気が弾けている。
沖縄に到着するなり海に飛び込むべく、
きっと服の下はもう破廉恥なビキニではないかとも思わされた。
それに対して我々北海道行きの厚着派は、
平均年齢高めでどこか鬱屈としており、
薄着派とは混じることのない明確なサーモクラインが引かれていた。

思わず沖縄もいいな・・・・・・と口から零れてしまうと、
概ちゃんが、
「沖縄にはどんな魚がいるんやろーって考えてる。すぐ魚のことやし」
なんて言い出し、これはご名答。
僕の頭の中では地味な色をしたロウニンアジではなく、
カスミアジのような色鮮やかなお魚ちゃんや、
色取り取りの熱帯魚ちゃんが群れを成し、
白い砂浜に寝転がっていたり、胸を揺らして浅瀬で戯れていた。
これからヒグマが待つ北海道の冷たい水で糸を垂らす奴がいるだなんて、
沖縄へ行く彼女達の誰が想像できよう。

十時五十六分、乗客を待つ旅客機に乗り込み、
指定していた窓際に着座した。
事前に席を予約する際に概ちゃんに抜け駆けしていたので
彼女の席は僕の隣ではなく、通路を挟んだ僕の左斜め後ろだった。
この意味のない微妙な距離感に複雑な想いをした。

十一時二十分、
三ヵ月前に概ちゃんと観に行ったトップガン・マーヴェリックに
登場したスーパーホーネットを彷彿とさせるほどの加速度はなかったが、
大きな機体は宙へ舞い上がり地上に並ぶ建物をみるみる小さくした。
窓の外にあるのはひたすら広がる雲海と濃い青をした空。
地上では体験できない別世界の景色は、
聖帝サウザーの気分にさせるに十分であり、
下界で汗水を垂らしてひっきりなしに働く下々の民に向かい、
東京証券取引所の後場終わり十五時までしっかり経済を回せと、
頬杖を突きながら二時間だけの王座を満喫する。

空の上で正午を跨ぎ、北海道へ向かっている現実が僕に語りかけてくる。
最終目標の魚であるイトウを釣ることができたなら、
僕はなにを感じ今後どう生きるのか。
イトウは難しい魚ではないと想像でき、
イトウが生息できる環境が整っていたならばきっと釣れる。
初魚との出会いは人生で一度きりなのだから、
これまで同様、出会うまでの過程を大切にしよう。
あれこれ想像するうちに、
釣り上げてからのことを考えるのは野暮だと気付いた。

次第に眼下にはまさに航空写真で見る地上が現れ、
陸と海の境となる海岸線が延々と続き、そこを通過すると
今度はどこまでも広がる緑の大地を飛んだ。
機はゆっくり高度を下げるが、
見渡す限り建物がないことに気づき、
本当に日本だろうかと疑いつつ、これが北海道なのだ。

十三時二十分、離陸から丁度二時間で目的の空港に着陸。
今度は陸から空を見上げると鈍色の雲に覆われていた。

お金で最短時間を買ったので海路や陸路より遥かに早く
到着できたのだけど、
始発バスに乗ってから到着が午後になるのだから、
これまでのどこよりも遠くの魚に会いにきたのだと思わされた。
いや、まだ水辺ではなくこれから長い長い陸路を経て、
予定では片道十二時間の行程になる。
目的地へ到着するのは陽が西の空に沈んでからになるので下見も
できないはずだ。この季節の北海道は夜明けと日没が早い。

空港で手配していたレンタカー店の送迎車に乗り、
今日から一週間お世話になる車の元へ案内された。
まず驚いたのはリモコンでドアのロックが解除されること、
いや正確にはリモコンのボタンを押さずして、ドアノブに触れたら
開錠される。
さらにイグニッションにキーを差し込むことなく
レーシング・カーよろしくスターターボタンでエンジンに火が入るのには
参った。
パワーウインドウにパワーステアリングまで装備され、
ギアはドライブレンジに入れれば速度に応じて
自動でギアが変速されるAT仕様。
オートブリッパー同様、減速時にヒール&トゥが不要なのは楽である。
驚きっぱなしの僕に概ちゃんが、
これが皆が乗っているごく普通の車だと諭される。
なんやったら乗り心地が良く車内がとっても静かであるとも。
もっとも驚いたのはセンターコンソールに鎮座する
ナビゲーションシステム。しかしこれは無用の長物、
道案内はスマホで十分ではないだろうか、この時代遅れめ。
そんなスマホの充電用に持参していたシガーソケットの変換器だったが、
そもそもシガーソケットなどなく、
USB電源が標準装備されておりこれこそが無用の長物であった。
都会から田舎に来たのに、なにこの浦島太郎感。

贅沢が集約された近未来型自動車に戸惑っていると、
レンタカー店のスタッフがアドバイスをくれた。
店を出てすぐの曲がり角に一時停止線があるのでお気をつけくださいと。
ちなみに全国の最たる交通違反は一時停止違反。
普段から守っていないはずがなく、
もちろん信号のない横断歩道に歩行者がいれば停止する。
サーキットは速いのが正義だが、公道は無事故・無違反が絶対正義であり、
一番格好良い。
アドバイスはありがたいのだけど、
こちらは金色眩い免許証を携帯する超優良ドライバーだ。
サーキットでは1コーナーをオーバーランする常習者でも、
停止線は綺麗に停止するテクニックを持ち合わせている。

初めての道だから一時停止線を見落としがちなのかもしれないが、
優先道路を走る車、特に北海道は速度が高めの車が多く、
その前に飛び出すなんて自殺行為だし、
自分の前に飛び出してくる違反車がいるかもしれない。
違反なんてダサいことをするわけがない・・・・・・と、
その曲がり角に来た時、早速捕まっている『わ』ナンバーを見て、
出オチやんとせせら笑った。
きっと旅行者だろう、
重大事故の当事者になり人殺しする前に捕まって良かったじゃない。
後に秋の全国交通安全運動中だったことを知り、
レンタカー店に戻るまで数々の取締まり対象を目撃することになる。

僕達は違反者を尻目に遥か遠くにある水辺へと、
近未来自動車で陸路を進んだ。








  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年01月29日

イトウは心に宿る30


25Lの防水バックパックを背負い、
艶消しの黒に塗られたロッドケースを左肩に掛け、
右手でフルサイズのスーツケースを引き、まだ仄暗い街を歩いた。
午前五時二十分、街の片隅で概(おおむね)ちゃんと合流した。
昼間の大通りを堂々と歩けない二人の関係ゆえ人目を忍んだ
静かな出発。街はまだ静寂を保っているが、
概ちゃんが引く中型スーツケースのキャスターがアスファルト表面の
ギャップを拾ってやけに騒がしい。
夢の北海道旅行実現で嬉しいのはわかるが、
結婚式で空き缶を引きずるブライダルカーよろしく、
まだ布団の中で夢を見ている皆様を叩き起こすつもりらしい。
僕のスーツケースと交換し、軽く持ち上げバス停へ向かった。

到着したバス停で始発バスを待つのはまだ二人だけ。
天気は申し分なく早朝の気温も心地良く感じられ、
都会で着るには少々早い革ジャンを脱いだ。
幸い二人は世界の誰ともウイルス繋がりがなく今日まで来られたが、
COVID-19に二度三度と感染して命拾いした者もいれば、数人は鬼籍に入った。
自分に深く関わりのある者達はいまだ感染していないが、
知り合いに陽性反応が出るたび忍び寄る黒い影を実感し、
自分の責任で愛する者の命を奪いたくないと常に考えてきた。

ここから北海道までの行程で避けて通れないのが公共交通機関であり、
人口の多い都市部から僻遠の地へウイルスを持ち込みたくない
との思いは強い。
しかしながらいつも通りの意識を持ち行動すれば問題ないはず。
バス停にはちらほら乗客が集まってきたが、
誰もがマスクをして適正と思われる距離を保ち列を作った。

バスから電車に乗換え、駅で停車するたび乗客が増える。
そのほとんどが通勤および通学での利用客だろうか。
中には通院する方や、初孫に会いに行くご婦人に、
緊張の面持ちで会社の面接に臨む人だっているかもしれない。
きっと想像もできない事情を抱えた人だっている。
社会に生きる皆が車両に揺れている。

乗換え駅を降り、別の路線へ向かう通路はいわゆる朝のラッシュ。
決して広いとはいえない通路を人々が行き交い、
その群衆の中にロッドケースを傍らにする自分が異質であることを
認識していた。と同時に遊びに行く気持ちの余裕、優越感。
邪魔にならないよう流芯を外れた隅っこに寄り、
足早にする人々を見送ってから、また二人で歩きだした。
次に乗車した路線では駅ごとに乗客が減り、
車内に空間が広がりマスク越しに会話も許されるであろうほどになる。
僕達は荷物が大きいので座席を利用せずドアの側に立っていたのだが、
ドア側に立つ概ちゃんの前に立ちはだかり、触っていいか尋ねてみた。
痴漢の許可を求める人なんていないと概ちゃんは言う。
では遠慮なくと言うと、声を出すと睨む。
公然で妙な声を出すなんて概ちゃんそこは堪え忍ばないと。
道ですれ違うGG共が思わず振り向く光景も珍しくないスタイルの
概ちゃんを、あんなことやこんなことだって
好き放題できる優越感。でも電車でするのは公然わいせつ。

目的の駅に到着し電車を降りると、
後ろからご夫婦らしき二人も降りてきて、
奥様もしくは愛人かも知れない女性が除菌シートを一枚取出し、
パートナーの男性に手渡す姿がとてもスマートで感心した。
きっとこの意識が二人を感染とは縁遠いものにしているのだろう。
仲睦まじきは美しい。

八時五十分空港到着。
ご時世だろうか搭乗手続きは簡素の一言に尽きる。
久しぶりで不慣れな自分達でも呆気なく手続きを終えることができ、
しばし広々としたロビーで寛ぐ。
僕は思い出したようにカメラを取出し撮影準備に取り掛かった。
被写体は全米が濡れたGカップの概ちゃん。
ポートレート撮影は狙った表情を引き出すのに
会話を巧みに行う手腕も問われるため、
先ほどターミナルへ来るのに利用したシャトルバスで見た、
大きな広角レンズのキヤノンを首に掛けた男性と、
その彼女と思しき女性が目をキラキラさせておしゃべりしていた
様子を切り出した。
すると予想だにしなかった驚きの答えが返ってきた。
概ちゃんも一瞬男性と思ったらしいが、間違いなく女性だったよと。
な・・・・・・なんだってーー!
週刊少年マガジンだったかのMMR調査班よろしく驚愕の事実。
別に野郎だろうが女性だろうが僕に損益はないし
地球だって滅亡はしないのだけど、
LGBTQの時代であることを再認識し、
そしてラブラブな瞳になっていた女性が実は男性で、
つまりは男女のカップルで帳尻合わせになっているのではと
猜疑心が芽生えもした。
結果カメラを持つ自分の表情が様々に変化していた。

これまで僕達は、散歩中に上空の飛行機を見つけては
どこへ向かうのだろうなんて言っていた。
今度は僕達がその飛行機に搭乗して空高く舞い上がる。

フライト時間が迫り指定された搭乗口へ向かうと、
後から続々と集まる人々の姿を見て驚いた。
ちょっと、この人達って・・・・・・。





  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年01月18日

イトウは心に宿る29

たわわに実る果実を胸にもつ概(おおむね)ちゃんは、
はっきり言って魚釣りに理解がない。
休日は晴天予報だからのんびり魚釣りでもしようかという
提案のもとでレジャーフィッシングを楽しむならいざ知らず、
雨に打たれながら糸を垂らすだの、
増水が落ち着いたから緊急発進するだの、
凍てつく夜に水辺に立ったり、
仕事帰りが丁度時合いだから水辺でちょいとひと投げ・・・・・・
なんてことは許されない。
許可なくそのようなことが露見してしまえば、
ペッパーミル・パフォーマンスよろしく
圧縮袋が真空状態にされるが如しのお仕置きが待っている。

ただ、ちょっと頭がよろしくない釣人は経験上釣れるタイミングを
把握しており、同時に釣れない状況も知っているため、
休日だから魚釣りをするなどという生温いスタイルでは目的の魚を
釣り上げられない。
さらに同じ釣人でも理解されないかもしれないが、
僕と同じ領域に生きる釣人は、魚釣りという手段で魚の動きを知るので、
釣れないのを確認するための釣りもする。
釣れないことで、やっぱり産卵の為に移動する季節だなと納得し満足する。
明日仕事だろうが晩御飯を後回しにしようが、
濡れようが凍えようが優先すべき事柄はまず水辺に立ち投げること。
ちなみに僕の知っている鱸釣師も、
「この風、この肌触りこそ鱸釣りよ!!」といって
スクランブルされている。

もっともそのような気が触れたようなスタイルを一般人に説明を
試みようとも理解に苦しまれるのは明白であり、
しかしながら粘り強く説得を続けるのだけれど、
これを逃すと後悔するから行かせてほしいと力説するその口元が
綻んでいるらしく、その顔が憎たらしいと両の手で頬を掴まれる。

世の中には私と仕事どちらが大切なのかと問うてくる
非常に面倒な女性が実在するそうだが、
概ちゃんはそんな低次元な発言はしない。
魚釣りへの理解は乏しくも、僕の切実な気持ちを汲んでくれる。
ある時二人でお出掛けした帰りにまたとない気象条件だったので、
ちょっとだけ投げてくると僕だけ水辺へ向かい、
二投目で久しぶりに自己記録を更新する琵琶湖大鯰を釣り、
魚と一緒に撮影してもらいたく車中で待つ概ちゃんに
連絡をすると、暴風雨だったため拒否されたのだけど。

そもそも僕は異性のパートナーと共に魚釣りを楽しもうとの
考えを持ち合わせていない。
生きた魚を笑顔で掴める女性というのがどうも苦手で、
釣具屋でワームを吟味する姿より、コスメを選ぶ女性の姿が好きだ。
批判を覚悟で申し上げるならば、
釣りガールという人種より、
生きた魚を触ろうとしたら急に動いて小さな悲鳴を上げると同時に
出した手を引っ込める女性が好みだ。
カムルチーを愛でる僕と、いやーと腰が引けてる概ちゃん。
こういうのでいい。

そういったところで北海道へ釣具を持参するのは僕だけであり、
概ちゃんのスーツケースには衣類と生地面積の小さな下着だけなので、
スーツケースのもう片側には圧縮されたシュラフが鎮座した。
スーツケースに荷物を収めたなら、
ヘルスメーターに乗せて重量の最終確認をする。
ふんだんに釣具が収まる遊びに特化されたスーツケースは
航空会社が定めた規定重量まで僅かというところまで迫っていた。
これはお見事という他ないと喜び安堵していたのも束の間、
帰路のお土産の分がすっかり抜けていると概ちゃんに指摘される。
なるほど、
学生時代から夏休みの宿題は計画的かつ余裕を持って終え、
アルバイトで得たお金は使い切らず貯金し、
朝は時間を逆算して余裕をもって起床する優等生タイプの概ちゃん。
夏休みが終わっても宿題を提出する授業はまだ先なので大丈夫だの、
これまで借金こそしたことはないがアルバイトのお金は
ガソリン代に化け、
起床は朝食の時間を食い潰してでも布団の中で
形を失ったスライムのようになっていたい僕にはお土産概念など毛頭なかった。

ほんまそういうところ!と呆れ返られようが
釣具を死守せねばならず、
さらに僕の手荷物分はミラーレス一眼とレンズで
目一杯だったので、
お土産は概ちゃんの手荷物分に任せることにした。

僕は旅立ちの日まで毎日を楽しんできた。
幸い南海トラフ大地震で大地が揺らされることなく、
出発日を迎えることになる。







  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ

2024年01月06日

イトウは心に宿る28

書籍や映像で旅をテーマにした魚釣りを目にしてきた。
ある釣人はスタッフを連れて海外へ飛んだ。
またある釣人は釣り仲間と共に魚を求めた。
単独で彼の地へ赴いた釣人は現地ガイドを頼りにした。
さらにストイックな釣人は単独で挑んだ。
楽しみ方は釣人の数だけあり、どれも素晴らしく憧れた。
だが僕の釣旅はそのどれでもなく、
少なくともこれまで見聞きしたことがないスタイル。

僕は異性を連れての釣旅を計画した。
いや、正確には引っ付いてきたと言うべきか。
念願の北海道釣行を実行すべく、
フライト・スケジュールを彼女に伝えると、
しばらくおいてから同じ機を予約したことが返信されてきた。
残り席が僅かだったのに椅子取りゲームよろしく滑り込んできたが、
急な大型連休をよく取得できたものだ。

旅先で魚釣りを楽しみ女性も楽しむ、いや、
女性と楽しみ、暇潰しで魚釣りを楽しむ。
初めて出会う景色の中で、
あの子とあんなことやこんなことができるなんて、
あぁなんと素晴らしいことだ。
北の大地の気温が上昇し、タンチョウが舞い上がり
ヒグマも発情する。

独り釣旅のなんと寂しいことか、
野郎と一緒に行く釣旅はさぞむさ苦しいことだろう。
例え旅費の全てを肩代わりしてもらえるとしてもその選択はない。
孤独の時間を楽しむソロキャンパーだって本当は異性を欲しているに違いなく、
美女が炊事場へ向かう姿を目で追ってしまう性を隠しきれていないし、
ソロキャンガールが孤独を埋めるようにSNSで発信して同情を誘っている。
心の奥底では抜群に相性が良い相手を求めているんでしょう?
孤独のグルメより二人でグルメ。異論は認めない。

異性と行く釣旅という心地よい響きを前に、
SNSで釣りガールに痛いコメントをしているGG共は
ハンケチを噛んで悔しがり、
女日照りが続く野郎共には垂涎の的に違いない。
こんなことを心に思っても口に出したり、
ましてやネットで書いてしまえば敵が増えてしまうので、
他所で話すことはご法度だ。
そもそも全世界の人々を敵に回そうとも、
同性の親友だの友人だのそんなものにも興味はなく、
愛する異性が一人側にいてくれればいい。
できることなら胸の大きな方が
より好ましいというのも付け加えたい。
僕は超然とした態度で荷造りに取り掛かる。

スーツケースに荷物を収納するいわゆるパッキングでは
困難を極めた。
嵩張る荷物の最たるものはウェーダーとシュラフだ。
向かう先の気温の幅広さにも困惑。
日中は夏日、朝夕は冷蔵庫の中、
もちろん夜間はストーブなしに過ごすことはできない。
半袖からジャケットまでを用意せねばならずこれらも嵩張る。
圧縮袋なるものを入手して衣類を詰める。
袋の上から体重を乗せて空気を外へ追いやり真空状態へもっていく。
なかなか便利なアイテムだと感心していると、
横から旅の同行者である概(おおむね)ちゃんが全然甘いと物申す。
これ以上は出ないと反論するも、まだ残っているからと概ちゃんは引かない。
もういいからと拒否したものの、不敵な笑みを浮かべて袋を奪われた。
概ちゃんの手から無理矢理空気が絞り出されて行く様が
あの苦しい時間と重なり、腰が引けて目を背けたくなる。
もうやめてという叫びは火に注ぐ油でしかない。
ほらまだ出るじゃないと得意げに絞り出し、
全て出し切り膨らみがなくなった袋を見て僕は震えあがった。






  

Posted by Миру Україні at 07:07イトウ